NEDO Web Magazine
スタートアップ支援扉図

スタートアップ支援の歩み
世界をリードするスタートアップの育成を

各務 茂夫 氏
KAGAMI Shigeo

東京大学
大学院工学系研究科 教授

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久木田 正次
KUKITA Shoji

NEDO 理事

久木田 NEDOは、長年、中小・ベンチャー企業の支援を行ってきましたが、特に2010年以降の10年間、スタートアップへの支援を強化してきました。この10 年を振り返り、NEDOが関わってきた事業も含めて、起業環境やスタートアップのビジネス環境で大きく変わったと感じられることはありますでしょうか。

各務氏 特に2015年頃から、大企業のスタートアップに対する意識が大きく変わったと感じます。スタートアップが持つエッジの効いたベンチャーマインドやオープンイノベーションの気風を、大企業も内在化しないといけないという意識が芽生えてきました。もう一つ、政府がスタートアップ支援に本腰を入れ始めたのも特筆すべきことです。2015年には「日本ベンチャー大賞」が設立されて、内閣総理大臣自ら受賞企業に対して奨励する姿勢を示されました。また、NEDOが事務局でもある経済産業省がイチ押しの企業を支援する「J-Startup」を2018年にスタートしたことも、大きな動きでした。大学の研究者の中にも、研究成果をなんとか事業化しようという意識が出てきたと感じます。

久木田 一方で、米国や中国では時価総額で1兆円を超えるようなユニコーンが100社を超える規模で登場しているのに対し、日本ではまだ数社にすぎず、開業率も低いという現状があります。特に、ディープテック系ベンチャーに対する支援はまだまだ足りないという指摘も頂きます。こうした状況を踏まえて、NEDOが果たしてきた役割をどう評価されますでしょうか。

各務氏 米国などと比べてまだまだ支援規模が小さいのは確かなことですが、NEDOが地方大学の隅々にまで目を配り、地域にある優れた研究成果を表舞台に出し、それが呼び水になって地域活性化にもつなげてきたことは評価に値すると思います。メンターやカタライザーの支援の仕組みを作り、地道にノウハウを蓄積してきたことが成果につながっていると思います。もう一つは、実績のあるベンチャーキャピタルにNEDOが認定を与える制度を作ることで、ディープテックを支えるリスクマネーの供給者としてのベンチャーキャピタルを育成してきました。これにより目利き力が高まり、質の高いものが出てくるようになったと同時に、支援対象の幅も大きく広がってきたように思います。最近では、ディープテックの中でも従来はビジネス化が難しかった分野の案件も出てきました。こうしたNEDOの役割が、日本のイノベーションを推進するエコシステムのレベルアップに貢献してきたことは間違いないところです。

久木田 まさにNEDOは、起業の段階から事業を成長させる段階など、様々な状況に応じた支援制度を作り、推進してきました。今のこの状況で、足りないピースがあるとすれば、それは何でしょうか。

各務氏 自社の技術やビジネスをわかりやすく伝えられる経営者人材の不足が、ディープテック系のスタートアップ企業が抱える課題です。コンサルティング会社出身者の流入が進んでいますが、加えて大企業出身者がもっと活躍しやすくなる工夫、兼業や働き方改革を進めることによる大企業にもメリットのあるエコシステムを構築するなど、日本全体としてどう組織だって進めるかが最大の課題のように思います。

久木田 ありがとうございます。今のような話も国をあげて取り組み、NEDOもその中で貢献できればと思っています。一方、2020年はコロナ禍などで先の読めない状況となりました。今後のスタートアップのビジネス環境について、どのようにお考えでしょうか。

各務氏 日本では先の大戦の前後に今の日本を支える大企業が出てきました。アメリカでも1980年代のベトナム戦争後のある意味一番状況が大変な中、今大きなイノベーションを起こした会社ができています。コロナ禍における今の時代は、戦中戦後の頃と同じような感覚で捉えられるのではないでしょうか。例えば前回の東京オリンピックが行われた戦後 約20年の時と同様に、コロナ禍20年後である2040年頃に、NEDOが支援したスタートアップ企業が日本のイノベーションの担い手として数多く誕生しているビジョンを描くとすれば、今こそスターティングポイントになっているのではないでしょうか。現在のコロナ禍がもたらす変化の中で人の流動性が高まっているのは確かなことです。今は厳しい時期ですが、コロナ禍をむしろチャンスに変え、トンネルを抜けた先に、スタートアップが日本を支えるという光明が見えてくると考えています

久木田 そう仰っていただけると元気が出ますね。そのためにも、日本のスタートアップはもっと成長する必要があります。何か処方箋はありますでしょうか。

各務氏 日本は課題先進国といわれますが、今回のコロナ禍でその課題が再定義されたり、増幅されたりしています。このようなプロセスの中で、今後課題解決先進国になれるかどうかが問われています。そして日本で培った課題解決手法をいかにアジア諸国でビジネス展開するかが重要ではないでしょうか。また、非連続のイノベーションを目指す「ムーンショット型研究開発」などのナショナルプロジェクトを、スタートアップ主導でやるのはどうでしょう。ぜひ“世界を変える”という大志を抱いてほしいですね。

久木田 ナショナルプロジェクトとスタートアップ支援、ぜひ、さらに充実させていきたいと思います。改めてスタートアップ支援に目を向けると、官民との連携など、まだまだやるべきことは多いと感じています。

各務氏  NEDOのこれまでの支援は重要ですので引き続き推進していただきたい。そして、海外市場に挑戦し成長できる環境をもっとつくっていただきたいですね。NEDOの支援を受けたスタートアップ企業が20年経ったとき、時価総額のトップ20社中に10社ぐらいが入っているようなイメージでしょうか。今まで支援した企業の伸びしろを引き出せるかと いう部分でも、NEDOの役割は大きくなるのではと思っています。

久木田 なるほど。これからNEDOは、日本のスタートアップ企業が世界のイノベーションをリードしていけるよう、経営者人材も含めてなお一層支援を推進していきたいと思います。

各務氏と久木田理事の写真

各務 茂夫 氏

1982年一橋大学商学部卒業。経営学博士。ボストンコンサルティンググループを経て、コーポレイトディレクション(CDI)の設立に参画。東京大学産学協創推進本部 副本部長を兼務。日本ベンチャー学会会長。


「NEDO40年史 イノベーションで未来をつくる」P.50-51から掲載

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