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巻頭インタビュー図

持続可能な循環型社会に向けたイノベーションの歩み
CO2ゼロがイノベーション生む

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内山田 竹志 氏
UCHIYAMADA Takeshi

トヨタ自動車株式会社 代表取締役会長
産業競争力懇談会 理事長

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石塚 博昭
ISHIZUKA Hiroaki

NEDO 理事長

石塚 NEDOは設立以来40年、エネルギー問題の解決をミッションの大きな柱として、持続可能な循環型社会の実現に向けた技術開発を進めてきました。加えて2020年10月、菅義偉首相は2050年までに温室効果ガス排出量を全体でゼロにするカーボンニュートラルの目標を表明され、いよいよ、NEDOが取り組んできたイノベーションを加速する時だと感じています。

内山田氏 今まさに「持続可能な社会」というキーワードが大切になっています。20世紀の「持続可能な社会」というのは「成長の持続が可能な社会」と同義語だったと思います。それが今、日本では“過去50年間で最大”と呼ばれる大型の台風や大雨が毎年訪れ、世界的にも大規模な干ばつや山火事などが頻発し、このままでは社会そのものが持続できないのではと感じるほど気候変動の問題を皆が体感する時代になりました。NEDOが提言する「持続可能な社会を実現する3つの社会システム」の「持続可能なエネルギー」「サーキュラーエコノミー」「バイオエコノミー」は、これまで付加的な位置付けでしたが、今後は成立のための必須条件になると思っています。国が示したカーボンニュートラルの方針は、二酸化炭素(CO2)を徐々に削減するというこれまでの方向性とは大きく違う、チャレンジングなゴールです。その達成には、既存の技術の限界を棚上げしたままでは届きません。まず、目指す目標と今ある技術力のギャップを認識することが重要であり、そのギャップを埋めるのがイノベーションやブレークスルーだと思います。

石塚 イノベーションの社会実装には、社会が求めているか、環境に適合しているか、経済合理性を伴うかという3条件を満たす必要があると考えており、これまでは社会が求めていても環境性能と経済合理性が相反しているということがありました。今後、これらが三位一体となる必要があると考えています。

内山田氏 例えばバイオプラスチックの必要性は分かっていても、高コストという課題があります。課題が分かれば皆でコスト低減に取り組むことができ、やがて経済と環境が両立します。今まで環境問題の解決は社会貢献活動的な位置付けで取り組む側面がありましたが、この2軸を成立させることが、持続可能な社会を実現するための必須条件になると思います。

石塚 環境性能と経済合理性を一度に満たすのはなかなか難しい問題ですが、産業界の立場で、具体的にどのように取り組めばよいとお考えでしょうか。

内山田氏 環境に必要なことは経済合理性が成り立つよう、産業界が頑張ればいい。例えばコストを1/2にするというロードマップを描いても、今の技術で10%しか下がらなければ、エンジニアはどうしたらいいのか考えます。「コストを下げる」という目標は、エンジニアも研究者もなかなかモチベーションが上がらないことがありますが、今の技術の延長線上では達成できず新しい技術が必要という点で、すごくやりがいのあるテーマだと私は思います。我々のハイブリッド車もそうですが、社会の持続性と経済・環境の両立は今、付加価値の源泉の1つとなっています。同様に今は、水素(燃料電池車)にも一生懸命取り組んでいます。

石塚 燃料電池・水素技術の開発では、NEDOプロジェクトでもいかに安く水素を作るかを出発点に、作った水素をどう運ぶか、運んだ水素をどう貯留し、それを利活用するかという4つの段階で取り組んでいます。

内山田氏 水素の普及で課題のコストについては、国が画期的なコスト低減を明確に掲げることで、大学や研究機関からチャレンジングな研究テーマが出てきています。こうした取り組みはぜひ国に支援していただきたいと思っています。また、生産コストのみならず、物流などを含めた水素バリューチェーンとしてのコスト低減も必要でしょう。こうした動きには規制が大きく関わります。環境面から水素の利用を促す規制や、水素ステーションなどで水素を扱いやすくするための、時代に合った規格作りも求められていると思います。

石塚 それこそが産学連携の技術開発に官が入る意味ですね。お互いに課題を認識し合い、資金面やルールづくりも踏まえて産学のプロジェクトを支援していく。NEDOは産学官連携のハブとして、今後もさらに知見を積み重ねていければと考えています。今、この水素技術の開発は社会でも注目を集めていますが、改めてこの40年間で様々な事業を推進してきたNEDOの今後に対して、どのような期待をお持ちでしょうか。

内山田氏 期待はたくさんあります。まずNEDOは自ら調査、企画、プロジェクトの提案、その実施・実証という一連の行動をすべてできる組織であり、高い資金力も有しています。こうした特徴を生かして、ぜひ社会実装までの1つの大きなプロジェクトの中で技術開発をマネジメントしていただきたい。また、ムーンショット型研究開発事業のように、リスクが高く大きなブレークスルーをもたらすプロジェクトにも積極的に取り組んでいただきたいと思います。失敗を恐れ出口戦略ばかり重視すれば技術改良しかできません。こうした取り組みは産学官が連携しなければ難しい。
 持続可能な社会という意味では、これまで東日本大震災など様々な困難を経験してきましたが、今回のコロナ禍のように世界中同時にすべてのサプライチェーンが止まってしまう状況は初めてでした。一方、新たに「非接触」という新しいキーワードが出てきました。産業界としてはそれらに対応した新しいビジネスモデルを作っていきますが、同時にNEDOには日本の成長に向け、新たな産業を興し世界で戦える突出した技術を育てるために、日本型の新しい産学官連携を推進する役割を果たしていただきたいと思います。

内山田 竹志 氏

トヨタ自動車株式会社 代表取締役会長
産業競争力懇談会 理事長

1969年名古屋大学工学部応用物理学科卒業。同年トヨタ自動車工業株式会社(現トヨタ自動車株式会社)入社。初代プリウスチーフエンジニアを務める。2013年より取締役会長。2020年に旭日大綬章を受章。


「NEDO40年史 イノベーションで未来をつくる」P.30-31から掲載