NEDO Web Magazine
巻頭インタビュー図

産学連携で
人材育成革新創出へ

ノーベル物理学賞受賞

天野 浩 氏
AMANO Hiroshi

名古屋大学 教授
CIRFE センター長

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石塚 博昭
ISHIZUKA Hiroaki

NEDO 理事長

天野氏写真

1983年名古屋大学工学部電子工学科卒業。1989年工学博士取得。2010年名古屋大学大学院工学研究科教授。2014年青色LEDの研究により赤﨑勇氏、中村修二氏と共にノーベル物理学賞を受賞。2015年10月から名古屋大学 未来材料・システム研究所附属未来エレクトロニクス集積研究センター(CIRFE)センター長・教授。「次世代照明等の実現に向けた窒化物半導体等基盤技術開発/次世代高効率・高品質照明の基盤技術開発」(2009 〜2013年度)などのNEDOプロジェクトに参加。

石塚 天野先生がノーベル賞を受賞された窒化ガリウム(GaN)は、長い研究開発を経て青色LEDをはじめとする様々な応用技術の社会実装が実現されてきました。この40年の日本のイノベーションを振り返ったとき、イノベーション創出のためのブレイクスルーは何だとお考えでしょうか。

天野氏 やはり人、教育だと思います。青色LEDの発明からイノベーションまで30年かかりましたが、投資家からは「30年待てない、10年が限度」と指摘されました。当時、研究者に加えて生産技術やビジネスに長けた人がいたら10年になったかもしれない。その思いから今、5年一貫の博士課程学位プログラムでスタートアップ起業などを目指す「卓越大学院プログラム」を進めています。工学系の学生は技術については非常に頑張るし、面白いことにはどんどん突き進む。けれども顧客は誰かとか市場調査はやったのかといった、ビジネスの基本部分はまだまだで、メンターである企業の方々からご指導いただいています。これまでの工学部の教育はビジネス、社会を見る目を経験させてこなかったとの反省があります。

石塚 それはスタートアップ企業も巻き込んで、ということですね。

天野氏 やはり、色々な経験を積んだ人がPMに就いてほしいですね。産学官の連携について、アカデミアの立場からはコアとなる技術を持つ大学が中心になるのが一番やりやすいと思います。我々の場合、大学がGaNをやるぞと言って、それに興味がある企業や未来のビジネスを考えておられる企業に集まっていただく。実は、GaNは社会実装にあたっての課題がまだたくさんある段階なので、集まって議論しやすいですね。

シーズを大事に育て、社会実装

石塚 大企業を巻き込み、産学連携からシーズをニーズにつなげる、まさにオープンイノベーションの成功例ですね。一方で、研究段階では企業が魅力や将来性を感じにくい技術というケースもあります。

天野氏 だからこそ、ファンディングエージェンシーとしてのNEDOの役割は重要です。目利きとして芽が出そうな技術を常にウォッチし、コンタクトして情報を集め、必要な時に必要な資金をつけるといった対応をしてくれる。そういう組織でいてほしいと思います。

石塚 時宜を捉えてということでは、新型コロナウイルス感染症の影響が不透明な中、NEDOは2020年6月に「コロナ禍後の社会変化と期待されるイノベーション像」という短信レポートをいち早く公表しました。コロナ禍の社会におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の可能性について、様々な観点からの意見や情報をまとめています。また、NEDOは持続可能な社会の実現に向けて3つの社会システムが必要であると考え、それを支えるためには次世代モビリティーやパワーエレクトロニクス、エネルギーマネジメントシステムといったDX技術が必要だと考えています。

天野氏 DXで鍵になると注目しているのがパワーデバイスです。GaNは照明をLED化することで7%の省エネルギーになるとされていましたが、パワーデバイスとして利用すればさらに10%の省エネルギーが可能となります。それからもう1つ、再生可能エネルギー中心になると電力網のインテリジェント化に加えて国内の電力系統に合わせて交流変換するパワーコンディショナーがますます重要になります。GaNはこうした用途でも耐圧が高い、高速スイッチングが可能といった特徴があり、我々は普及に向け低コスト化を進める研究やp型n型を自由に制御するためのGaNへのイオン注入技術などの開発を進めています。飛んでいるドローンに電気を送る「ワイヤレス電力伝送システム」も実現可能と考えています。まさにこれからが勝負で、社会実装に向けた大量生産技術についての研究を進めようとしています。

石塚 社会変化に柔軟に対応して解決することが、生き残るために必要ということですね。そこで、この40年で様々な役割を担ってきたNEDOに対する「次の10年」への期待をぜひ、お聞かせください。

天野氏 私自身、若い頃にNEDOに支援いただいた深紫外線LEDの開発が、コロナウイルスの不活化技術として今、花開きつつあります。当初は役に立つのかともいわれましたが、あの時続けたことが今につながっています。NEDOにはぜひ、今後もシーズを掴まえて大事に育てることを続けていただきたい。もう1つ、2050年のカーボンニュートラル実現に向けてNEDOの重責が増すと思いますが、日本のイノベーションのリーダーとしての役割を果たしていただきたい。今回のコロナ禍で、国と国との往来が途絶えた時、生き延びるために国としての自立が重要と、改めて分かりました。そうした時に社会で必要となる様々な技術を、ぜひNEDO主導で実現していただきたいと思います。

石塚理事長写真

左が天野氏、右が石塚理事長


「NEDO40年史 イノベーションで未来をつくる」P.12-13から掲載

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