NEDOのムーンショット型研究開発事業では、地球環境の再生に向けて、
産業や消費活動を継続しつつ地球温暖化問題と環境汚染問題を解決することを目指し、
温室効果ガスや窒素化合物、海洋プラスチックごみ等の環境汚染物質を削減する
新たな資源循環を実現するための研究開発に取り組んでいます。
ムーンショット目標4「2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現」
地球環境問題の中には、人間が環境中に排出した物質によって引き起こされているものが多くあります。
温室効果ガスに対する世界的な取り組みとして2015年12月にCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で合意されたパリ協定では、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つ「2℃目標」が掲げられましたが、この目標と、これまでに各国が提出した2020年以降の排出削減目標(約束草案)に基づく見通しとの間には、大きな乖離があるとされています。2030年には130億t-CO2ものギャップがあるとの予測もあり、従来の排出源対策に加え、ネガティブエミッション技術等の新たな温室効果ガス対策が不可欠と考えられます。
また、「プラネタリーバウンダリー」という考え方においては、窒素等が人間社会の発展と繁栄を継続するための限界値を超えたハイリスクな状態にあるとの報告があります。様々な産業活動等から排出される窒素化合物を回収、有効利用する技術等の確立が求められています。
さらに、近年広く知られるようになった海洋プラスチックごみ問題については、海の生態系に影響を与えており、食物連鎖を通じた人類への影響も懸念されています。現在普及している生分解性プラスチックは海洋での分解性に不十分な点があるため、海洋に流出した際に適切に分解される海洋生分解性プラスチックの開発が課題となっています。
これら環境中に排出され悪影響を及ぼしている物質については、これまでも取り組まれてきた排出削減の努力に加えて、排出される物質を循環させる方策も必要です。
こうした背景を踏まえ、ムーンショット目標4では、地球環境再生に向け、持続可能な資源循環の実現による、地球温暖化問題の解決(Cool Earth)及び環境汚染問題の解決(Clean Earth)を目指し、挑戦的な研究開発プロジェクトを実施しています。具体的な目標として、2030年の時点ではパイロット規模や試作品レベルでの技術の確立を達成し、さらに実証試験や各開発段階における技術開発課題の解決を経て、2050年の時点ではこれら確立された資源循環技術を用いた商業規模のプラントや製品が社会に広く普及していることを掲げています。
ムーンショット目標4の推進体制
ムーンショット目標4の達成に向けて、経済産業省が策定した「研究開発構想」を踏まえ、NEDOは2020年8月に13件の研究開発プロジェクトと、それをマネジメントするプロジェクトマネージャー(PM)を採択しました。さらに、これら複数のプロジェクトを統一的に指揮・監督するプログラムディレクター(PD) として、公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)副理事長・研究所長の山地憲治氏を任命しています。
PDは、ムーンショット目標を戦略的に達成するためのポートフォリオを構築し、研究開発を挑戦的かつ体系的に推進していきます。個々の研究開発プロジェクトのみならず、プログラム全体として目標達成に向けて有効となるよう、LCA(ライフサイクルアセスメント)注5の観点なども踏まえ、総合的なポートフォリオマネジメントを主導していきます。
NEDOは、PDによるポートフォリオマネジメントやPMによるプロジェクトマネジメントを支援するとともに、プロジェクト成果のスピンアウトや社会実装に向け、国内外の技術開発プロジェクトや産業界の有識者との連携、ELSI (倫理的・法制度的・社会的課題)や数理科学などの分野横断的な視点からの意見の活用など、目標達成に向けて様々な知見やアイデアを柔軟に採り入れる研究開発体制を構築していきます。
ムーンショット型研究開発事業推進室の意気込み
ムーンショット型研究開発事業は公募開始当初から現在に至るまで、国内外から高い関心をいただいております。今後はPDやPMと協力しつつ、将来の社会実装に向けた国内外の機関との連携についても積極的に推進していきます。
また、ムーンショット目標は、人々の幸福を目指して、社会・環境・経済の諸課題を解決すべく決定されたものですので、研究者の方だけでなく一般の方々にも関係が深いものだと考えています。より一層、様々な方に関心をもっていただけるよう、NEDOのムーンショット型研究開発事業ではどのような研究開発を行っているのか、どのような成果が出ているのかなどについて、積極的に公開していく予定です。
NEDO イノベーション推進部 ムーンショット型研究開発事業推進室(左から)
小島 香乃 主任 吉田 朋央 主幹 須澤 美香 主任
注5 LCA(ライフサイクルアセスメント)とは、対象とする技術・製品で使用される資源の採掘から素材製造、生産、技術・製品の使用・廃棄段階までのライフサイクル全体を考慮し、資源消費量や環境負荷物質の排出量を定量的に把握するとともに、その環境への影響を評価する手法。例えば、CO2の回収・利用においては、回収、濃縮、有価物への変換等の際にエネルギー投入や触媒等の使用が必要となるが、それらの過程を考慮したうえでライフサイクル全体としてCO2排出量の削減に貢献するかを評価する必要がある。
NEDOが実施するムーンショット型研究開発事業の最新情報はこちらに掲載されています。