NEDO Web Magazine
特集:ムーンショット事業タイトル

未来社会を展望し、顕在化するであろう国内外の社会課題を解決する観点から、
人々を魅了する野心的な目標に挑戦することを目的に創設された「ムーンショット型研究開発制度」。
NEDOは、ムーンショット目標4「2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現」の達成に向け、挑戦的な研究開発を実施しています。
目標4における研究開発の重要性や今後の抱負について、研究開発全体を指揮・監督する山地憲治プログラムディレクターにお話を伺いました。

山地PDの写真

山地 憲治 氏

ムーンショット目標4 プログラムディレクター(PD)
公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)
副理事長・研究所長

地球環境分野のスペシャリスト、山地氏をPDに任命

 2018年、日本発の破壊的イノベーションの創出を目指し、従来技術の延長にない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発を推進するものとして、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)において「ムーンショット型研究開発制度」が創設されました。そのゴールとして、一般公募した社会課題や実現すべき未来像をもとに有識者会議とムーンショット国際シンポジウムでの議論を経て、2020年1月にCSTIが6つの目標を決定注1。NEDOはその1つ、ムーンショット目標4「2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現」に取り組んでいます。
 NEDOは目標達成に向け、研究開発の総指揮をとるプログラムディレクター(以下、PD)として、地球環境分野への知見が深く、また、NEDOが企画・開催した国際シンポジウムの分科会4「完全資源・物質循環による地球環境再生計画」でも座長を務めた、公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)の山地憲治副理事長・研究所長を任命しました。

ムーンショットは、野心的かつ挑戦的な研究開発

 PD就任について、山地PDは「私の専門分野であるエネルギー研究は地球温暖化と密接に関係しており、地球温暖化対策の研究にも携わってきていることから、このムーンショット目標4は非常に関心のあるテーマでした」と思いを語ります。
 「2019年の国際シンポジウムでは、現在、地球環境についてどういった喫緊の課題があるのかを整理しました。1つは、やはり地球温暖化。産業革命以前は280ppm注2程度だった大気中のCO2濃度が近年では400ppmを超え、明らかに地球に影響を及ぼしています。2つめは、G20大阪サミットでも取り上げられた海洋プラスチックごみの問題。そしてもう1つは、プラネタリーバウンダリー注3でも指摘されている窒素化合物です。ムーンショット目標4では、私としても関心の高いこれらの課題にチャレンジしていくということで、PDを引き受けようと思いました」
 ムーンショット型研究開発の特徴は、より野心的かつ挑戦的な研究開発を対象としていることです(図1)。これについて山地PDは「例えば温室効果ガスにおいては、その主たる物質であるCO2の排出を抑える研究や大気中に出る前に回収する技術の開発はこれまでも進められていますが、より挑戦的な方法として、すでに大気中に排出され広がっているCO2を直接回収して有効利用するDAC(Direct Air Capture)という技術などを対象にしています。非常にチャレンジングで、目標4の研究開発の一つの柱です」と解説。さらに、「昨年10月には菅首相の所信表明演説において、2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を実質ゼロにする)を達成するという新たな目標が打ち出されました。まさに目標4の目指す方向性と一致しています」とNEDOのムーンショット型研究開発事業の重要性を語ります。
 また、近年関心が高まっている海洋プラスチックごみ問題では、生分解性プラスチックの無害性の確保や機能面での課題を解決するような分解スイッチの設計、窒素については、環境中に排出された窒素化合物を有用物質に変えて利用、無害化するためのさらなる挑戦も対象としていると力を込めます。

持続可能な資源循環の実現に向けて取り組む研究開発

図1:持続可能な資源循環の実現に向けて取り組む研究開発

ムーンショット目標4のポートフォリオ

【競争型】
類似の領域や技術であり、競わせながら研究開発を推進するもの。3年目または5年目に絞り込み。
【特定条件型】
特定の条件下においては有意であり、技術的にもユニークなもの。
【見極め型】
技術等の見極めが必要と評価したもの。「見極め」に絞った計画に見直し、小規模に開始。新市場の創出も求められる「技術見極め型」と市場適応性を問う「社会実装見極め型」の2つがある。

図2:ムーンショット目標4のポートフォリオ

2050年の社会実装を目指し、大胆にチャレンジ

 2050年の目標達成に向けた長期的な研究計画におけるPDの役割を、山地PDは「本制度では個々の研究計画をプロジェクト、目標ごとに複数のプロジェクトをまとめたものをプログラムと呼びます。複数あるプロジェクトのチャレンジ性や実現性、効果の大小などを考慮して組み合わせたプログラムのポートフォリオ注4を構築し、プログラム全体をマネジメント・支援していくのがPDです」と説明します(図2)。
 「始めから社会実装を目指してしまうと発想を妨げますので、挑戦の芽を摘まないよう可能性があるものでポートフォリオを組みました。今後は研究を進めながら、本制度としての目標到達が難しいと判断したら、スピンアウトさせてそれまでの研究成果を他の研究等に役立てていく、というように、進捗に応じてプロジェクトを選抜していきます。このポートフォリオマネジメントがPDの重要な役割で、NEDOと協力して、マネジメント体制を構築したところです。今後も、NEDOの情報収集力や調整能力を活用しながら、協力してマネジメントにあたりたいと思います」
 そして、それぞれのプロジェクトを統率するプロジェクトマネージャー(PM)に期待するのは、チャレンジ、リーダーシップ、ビジョンだと語ります。
 「ムーンショット目標は大変野心的です。世界と競争する意気込みでチャレンジしつつ、プロジェクト内に複数ある研究開発の担当機関に対してしっかりリーダーシップを発揮していただきたい。そして、社会実装というゴールへのビジョンを持っていただきたいと思います」
 社会実装とは世の中に広く使われている状態です。目標は2050年でも、2030年にはプロトタイプが市場に出ている必要があり、実際はあと10年で方向性を見出していくことになります。そのためにNEDOとして、山地PDのもと研究者と力を合わせ取り組んでいくことが、ムーンショット型研究開発事業の最大のチャレンジでもあるのです。

山路PDの写真

注1 2020 年7月には健康・医療戦略推進本部においてムーンショット目標7が決定。
注2 100 万分の1 を示す単位(1ppm = 0.0001%)。280ppm = 0.028%、400ppm = 0.04%にあたる。
注3 人間社会の発展と繁栄を継続するために、地球環境の9つの領域において定められた限界値。これを超えると人間が依存する自然資源に対して回復不可能な変化が引き起こされる。
注4 プロジェクトの構成(組み合わせ)や資源配分などの方針をまとめたマネジメント計画。

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