NEDO Web Magazine
FN78_bio-logo.png

生物細胞の力を生かすスマートセル成果事例紹介

スマートセルプロジェクトではデジタル技術と最先端バイオ技術を融合させることで、さまざまな技術を開発してきました。ここでは微生物と植物のそれぞれから実用化が近づいている事例を2つずつご紹介します。
また、その他の研究開発についても成果集に掲載していますのでご参照ください。

全国の企業や大学との連携で得た成果を一冊に

 本プロジェクトでは5年間にわたって、植物の生産性制御に係る共通基盤技術開発、植物による高機能品生産技術開発、高生産性微生物創製に資する情報解析システムの開発、微生物による高機能品生産技術開発という4種類の研究開発が進められてきました。成果集ではこれら研究開発のテーマを「共通基盤技術」と「物質生産検証事例」に分けて、技術概要や関連情報を紹介しています。

FN78_bio-16.jpg


NEDOホームページで成果集を公開中

微生物の機能を利用

CASE 1 【長州産業(株)】

長寿ビタミンと呼ばれる希少アミノ酸を環境に優しく安価に量産

発酵技術を取り入れた生産方式により
エルゴチオネインを低コスト大量生産

 希少アミノ酸エルゴチオネインは強い抗酸化活性を有し、ヘルスケア等への利用が期待される一方、天然の生産量は少なく、製造コストの高さと化学合成では環境負荷が大きいことが課題でした。スマートセル技術を活用することで、環境負荷を抑えて安価に安定生産可能な微生物を構築しました。大量生産するための発酵プロセス開発を進めています。

FN78_bio-8.jpg

一週間で数千株の培養評価が可能なハイスループット微生物構築・評価技術を開発し、反応性が高い高機能型酵素の取得に成功。

CASE 2 【旭化成ファーマ(株)】

需要が拡大するコレステロールエステラーゼの生産改革

30年間使い続けて限界と思われた
産業用微生物の能力をさらに引き出す

 血中コレステロールの測定キットに使われる酵素コレステロールエステラーゼ。産業界では30年間にわたって微生物で生産し、これ以上の効率化は難しいと考えられていました。そこで、スマートセル技術を組み合わせたDBTLサイクルから導かれた新手法を試したところ、酵素の生産性が向上。情報技術により人知を超えた成果が得られました。

FN78_bio-9.jpg

微生物の細胞内で酵素がどのように生産されるのか、情報技術で解析したことで、いままでとは違った培養方法を発見。

植物の機能を利用

CASE 1 【ホクサン(株)】

世界的に被害が甚大なジャガイモの根に寄生する害虫を駆除

硬い殻で覆われた不死身!?の害虫
解決の鍵は孵化だった

 ジャガイモシストセンチュウ(PCN)は、イモを植えると卵が孵化してイモに寄生して弱らせる害虫です。寄生前に駆除したいのですが、卵は環境・薬剤耐性の高い殻(シスト)に包まれているため効く農薬がほとんどありません。そこで注目したのが、ジャガイモが分泌する孵化促進物質PCN-HF。スマートセル技術を活用してこの物質の大量生産系を開発できれば、イモの収量低下という世界的課題の解決が期待されます。

FN78_bio-10.jpg

作物を植える前に孵化促進物質PCN-HFをまくことで、幼虫は孵化しても餌がないため生存できず、イモを害虫被害から守ることができる。

【CASE 2 (株)アミノアップ】

植物の栽培環境をコントロールして有用な物質を増やす

栽培環境制御による成長促進で
シソの葉収量が増大

 シソ葉の抗酸化、抗アレルギー効果等を示す機能性成分の含有量・収穫量は露地栽培で不安定です。同社は白エゴマ(シソの変種)を用い、遺伝子組換え/ゲノム編集技術や植物工場における環境制御技術等によるシソ葉の機能性成分高含有化・安定生産を目指して研究を進めています。現在までに、単位面積当たりの年間収量は約50倍に、ある機能性成分は約20倍にまで増加させることに成功しています。

FN78_bio-11.jpg

市販品のシソと比べると、そのサイズの違いが一目瞭然。収量増大は光や温度など栽培環境制御の最適化の成果。

Column バイオテクノロジーと情報解析技術を組み合わせて持続可能な社会に貢献

 2020年度末に5カ年計画の一つの区切りを迎えるNEDOのスマートセルプロジェクト。その成果と展望について、プロジェクトリーダーを務めた九州大学名誉教授の久原氏は「これまでに“潜在的な生物機能”を効率的に引き出す新たなアプローチとそれを具現化する多くのツールが開発されました。これらを使って生物情報の集積、情報の分析、生物機能の改変・発現を行うことで、経済・社会に大きな変革をもたらすバイオエコノミーへの貢献が期待できます。多くの方々にこれらのツールをご活用いただき、循環可能なバイオ由来のモノに満たされた社会の実現に寄与することを願っています」とコメント。
 サブプロジェクトリーダーである産総研グループ長の松村氏も「本プロジェクト成果の企業や研究機関の開発ステージに合わせた選択的利用により、多くの事業分野においての知見がさらに蓄積され、より実践的な技術として磨かれ、日本のバイオエコノミー社会の実現に向けて活用されることを期待しています」と、技術のさらなる発展・活用に期待を寄せています。

FN78_bio-12.jpg

久原 哲
NEDO
スマートセルプロジェクト
プロジェクトリーダー
国立大学法人九州大学
名誉教授

FN78_bio-13.jpg

松村 健
NEDO
スマートセルプロジェクト
サブプロジェクトリーダー
国立研究開発法人産業技術総合研究所
グループ長

Top