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コロナ禍後に期待されるイノベーション像

日本の強みを生かしてデジタルシフト

 TSCがまとめた、コロナ禍後に期待されるイノベーション像のキーワードは、「デジタルシフト」です。
 これからの10年間を目安に、さまざまな分野で起きる変化予測を基に今後のニーズや技術をまとめた結果、医療・感染予防、仕事・産業、学校、行政・都市といった各分野に共通する要素として浮かび上がってきたのが、リモートやオンライン、分散化、自動化、省人化を内包する、デジタルシフトでした。
 こうしたデジタルシフトの実現に欠かせない共通技術を、イノベーション創出に必要な技術としました。それぞれ、テレワークや、授業や診察のオンライン化に必要な「オンライン・コミュニケーション」、バーチャル会議やオンラインイベント等に用いる「リアリティ」、接触抑制技術全般に求められる「信頼性・セキュリティ」としています。コロナ禍でオンライン化を経験したデジタルネイティブと呼ばれる子どもたちにとって、今後、こうした技術は当たり前の存在になっていくと予想しています。
 これらの技術を活用し、日本の強みを生かしながら、新たなイノベーション像を共創することが期待されています。

産業分野のデジタル化が進展


 産業分野においても、コロナ禍後に大きく進行するのが、さまざまな領域におけるデジタル化です。産業を、「バーチャル空間でのサービス/区分1」「リアル空間でのサービス/区分2」「データ駆動型産業/区分3」「モノの製造・生産(モノありき)/区分4」の4つに分けてコロナ禍前後で比較すると、デジタルへの全体的なシフトと、区分ごとにイノベーション像の違いが見えてきます。
 上下はデジタル化の浸透、横軸のモノ、ヒトは、モノにかかわる産業か、ヒトに対するサービスかで大別しています。球の大きさは、おおよその市場総規模を想定したものです。区分4のような、モノありきの産業では、デジタルとアナログの融合が、イノベーションの鍵となります。

コロナ禍前後の産業分野の変化

〈コロナ禍前〉
4つの区分すべてで、デジタル化の進行度合いは
遅れていた。デジタル技術を活用したモノづくりや
オンライン決済が注目を集めた

〈コロナ禍後〉
あらゆる領域で、少なからずデジタル化が進む。
それに伴って、各区分で求められるイノベーション像の
違いが明確になった。

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【デジタル化事例】

■省人化でより効率的なモノづくりに

 製造・生産現場では、モノづくりのデジタル化で省人化が進みます。その中心にある技術は、AIによる自律制御と、アバターを用いた遠隔操作であるテレイグジスタンス(注1)の両立です。これらの技術の活用で、生産効率の向上を実現し、コストが低い海外の労働力への対抗が期待できます。食品加工工場での衛生管理にも大きく貢献します。一人の人間が複数のモノづくりに同時に関わるマルチタスクや、育児や介護との両立、高齢者の経験活用も可能となります。
(注1)人間を従来の時空の制約から開放し、時間と空間を隔てた環境に実効的に存在することを可能にすること。

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自律制御と、テレイグジスタンスといったデジタル化によって、製造・生産現場で進む省人化。物理的な制約を超えたモノづくりへの参加が、生産効率を高めます。

■環境問題も解決する食の物流再構築

 食のサプライチェーンにおいては、疫病や災害に対して強靭な仕組みの再構築が求められています。そこで必要となるのが、CAS冷凍や凍らせない冷凍といったコールド技術、食材を長持ちさせるエイジングフードといった備蓄を可能にする技術です。世界中で食料廃棄削減の動きが拡大しているという背景からも、大量生産、大量消費から脱却した仕組み構築が期待されています。強力なロックダウンの経験によって、これまでの生活を見直す動きが加速しています。

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生産、製造・加工、卸、小売りの構造は、従来の水平分業から垂直分業に。効率化・最適化と安全・安心を両立した、強靭なサプライチェーンの再構築と国内回帰に期待が高まっています。

KEY POINT キーポイント
鍵は「デジタル」と「変革レジリエント」

コロナ禍後の社会に期待されるイノベーション像の実現には、日本の技術を融合した総合力が強みとなります。

社会変化を積極的に実現するイノベーション

 新型コロナウイルス感染症は、新しい社会への移行を必然的に促すきっかけとなり、これまで当たり前と考えられていたあらゆるものを見直す機会となりました。緊密なコミュニケーションやサプライチェーンの在り方にも、大きな変化が求められ、さまざまな分野へのデジタル技術の普及もまた、新しい社会への移行を後押ししています。そうした社会の積極的な変化の実現に欠かせない、新たなイノベーション像を予測することが、日本の産業再生につながると考えています。
 コロナ禍によって、さまざまな領域でオンライン化が進みました。ビジネスシーンでは、会議等の人との接触に始まり、長らく物理的な物体を必要としていた名刺やはんこなどもデジタルに置き換わりました。今後、展示会や講演会が、バーチャルで行われるようになるという期待を持っています。

既存の強みとデジタルを融合

 単体では海外に遅れを取っていた日本のデジタル技術は、日本の強みである、水処理技術等の環境負荷軽減技術、製造業の緻密なモノづくり等との組み合わせで強みを生かせるはずです。危機を反発力に変えて成長する「レジリエント」なエネルギー社会および、強靭なサプライチェーンの構築。さらに、5Gといった技術に対応したインフラを備え、デジタルを最大限活用できる「デジタル対応都市」を日本の技術の統合によって実現し、パッケージ化することも可能だと考えています。これを官民一体となり、各国の実情に合った社会インフラシステムとして提案することで、コロナ禍で疲弊した社会に勇気と活力を与えることができると考えています。

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