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衛星データで土地改変を「直感的に見る」、鉱物資源のリスクを可視化

「気候変動・環境レジリエンス基盤構築」1位受賞者に聞く

NEDOは2025年1月23日、「NEDO懸賞金活用型プログラム」の第1弾となる「衛星データを活用したソリューション開発/NEDO Challenge, Satellite Data for Green Earth」のコンテストを開催しました。グリーン分野における社会課題解決による新産業や新規ビジネスの創出を目指し、衛星データ等を活用することで、より効果的に課題の解決を実現する優れたシステムの提案を募集。コンテスト上位者に懸賞金を交付する取り組みです。本事業で設けた3つのテーマのうちの一つ「気候変動・環境レジリエンス基盤構築」のコンテストで1位を受賞した松八重一代氏が率いる研究チームに話を聞きました。

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中央が東北大学大学院環境科学研究科 先進社会環境学専攻 環境政策学講座 環境・エネルギー経済学分野 教授の松八重一代氏
左は東京大学 情報基盤センター 学際情報科学研究部門 教授の山肩洋子氏
右はエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC) 金属企画部 担当審議役の広瀬和世氏

土地改変が時間とともにどう動いていくのかを可視化

――今回、「AI支援による衛星画像解析に基づく鉱物資源サプライチェーンリスク可視化プラットフォームの構築」の提案で1位を受賞されました。このプラットフォームの概要について教えてください。
松八重氏 鉱物資源の向こう側にあるサプライチェーンリスクをどう可視化するかに関心がありました。資源採掘は現地で大きな土地改変を引き起こし、森林伐採にもつながります。そうした影響を点ではなく時系列で捉え、土地改変がどのように進み、周辺環境がどう変化しているのかを見せていきたいと考えたのが発端です。

鉱物資源採掘にはフォーマルな活動とインフォーマルな活動があります。フォーマルな鉱山は情報がありますが、インフォーマルな鉱山はそもそも発見すること自体が難しい。ですからまず、現場で何が起きているのかを見えるようにする必要があります。

そこで衛星画像を使えば、土地改変が直感的に「見える」と気付きました。低炭素技術に必要な銅に着目すると、チリのエスコンディーダ銅鉱山は世界最大の銅鉱山ですが、衛星画像を時系列で並べると変化そのものが見えます。ただしそれだけだと土地が広がっているようにしか見えないので、ピット(露天掘りによって地表に作られた大きな穴や採掘場)、廃鉱石、関連施設、人工物などに分けて、どの要素による土地改変なのかを整理して時系列で追跡しています。

鉱山活動と聞くと、採掘しているピットが中心の活動で、土地改変の多くを占めているように感じられますが、実際に最も大きな土地改変を占めているのは廃鉱石を置く尾鉱です。この解析から、鉱物資源のライフサイクルアセスメント(LCA)における土地改変の要因をより詳細にしていく必要性が明確になりました。本プラットフォームはそれぞれの要素ごとに色分けしたポリゴンを作り、土地改変が時間とともにどう動いていくのかを可視化したのが特徴です。

もう1つ、TMR(Total Material Requirement、関与物質総量)という指標を用いて人為的な環境撹乱の影響を数値化しています。TMRは“環境背後霊”とも呼ばれるもので、エスコンディーダ銅鉱山では銅1トンあたり約3.1トン分の環境撹乱を背負っていますが、この数値は鉱山ごとに異なります。そのためTMRを鉱山別に算出しました。土地改変は面的な指標なので、TMRの計算とは別のものとして捉えています。

――今後、自然環境を守るうえでTMRは重要になってくるのでしょうか。
松八重氏 そうですね。自動車を例に取ると、最も多く用いられる素材である鉄は1トンあたり大まかに13トン、重さで本体重量の約13倍の関与物質を背負います。電気自動車は走行時に炭素は出さないものの、ガソリン車に比べて鉄よりも重い関与物質を背負う銅やコバルト、ニッケルなどを多く必要とするため、一台あたりのTMRが大きくおよそ3倍以上になります。

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東北大学の松八重氏

今回は27カ国、11鉱種の鉱山を対象にしました。データベースには約1万5000件の情報があり、そこから鉱石、濃縮物、素材、中間製品、最終製品へと段階ごとにTMRを推計しています。さらに、鉱物資源がどこから来ているのかも地域別に推計できます。世界全体で見ると中国は自動車生産が多く、TMRで最も大きいのは中国の電力供給に使われる石炭によるものです。一方で中国は資源を海外からも輸入しているため、その分の環境撹乱が各地で起きています。例えば銅はチリやペルーで採掘が行われ、年間121メガトンのTMRを向こう側に置いてきていることが見えてきました。

炭素排出の研究や水圏への影響を見るウォーターフットプリント、生物多様性損失を分析する研究はありますが、鉱物資源に着目して土壌系や生態系の環境撹乱を捉えた研究は極めて少ないのが現状です。そうした背景も、今回の研究を進める大きなモチベーションになっています。

ターゲットを民間に絞り、インターフェースを刷新

――これまで各所に分散していた情報を一元的に可視化できるのが本プラットフォームの功績というわけですね。一方で、今回の研究チームの強みはどこにありますか。
松八重氏 鉱物資源LCAの専門家、衛星画像を使って小規模なインフォーマル採掘を発見する世界トップクラスの専門家、画像解析やAI、機械学習の専門家がチームを組んでいる点です。

そもそも令和3年度に科学技術振興機構(JST)の未来社会創造事業の探索加速型に採択され、そこから技術開発を本格化しました。衛星画像解析ではエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の広瀬和世さん、AIや機械学習では東京大学 情報基盤センター 学際情報科学研究部門の山肩洋子先生に協力いただきました。

これまで接点がなかった分野の人材をつなげたことも大きいと考えています。広瀬さんはJOGMECの前にJSS(一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構)に在籍しており、鉱物資源の向こう側を捉える衛星画像解析、とりわけASGM(零細・小規模金採掘)を発見する高度なスキルを有していました。山肩先生と知り合ったのは今から10年ほど前ですが、当初は鉱物資源や鉱山活動は門外漢でした。未来社会創造事業提案の際にお声をかけなければ、お2人ともここまでコミットはされなかったと思います。

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東京大学の山肩氏

山肩氏 私は画像やテキストの機械学習が専門で、衛星画像は未経験でした。最初に声をかけられたときは専門知識がないため躊躇しましたが、松八重先生の構想が非常に見事で、自分も貢献できるならぜひやりたいと思ってご一緒することにしました。松八重先生を紹介してくださった立命館大学の山末(英嗣)先生とは食のTMRの話をしていたこともあり、親和性を感じたことも理由の1つです。

――NEDO懸賞金活用型プログラムの応募動機を教えていただけますか。
松八重氏 先ほどのJSTの未来社会創造事業には探索加速型のほか、社会実装を目指す大規模プロジェクト型があります。当然、大規模プロジェクト型への審査も受けましたが、残念ながら進めませんでした。その悔しさを、すべてNEDOチャレンジにぶつけたのです(笑)。衛星データを活用したソリューション開発がテーマなので情報を追ってはいませんでしたが、たまたまFacebookのフィードに流れてきたのを見た瞬間に「これだ!」と思いました。

――懸賞金活用型プログラムならではの特徴はどんなところでしょうか。
松八重氏 プラットフォームのプレゼンなので、ついデータ量や計算機能を詰め込みがちになりますが、「もっと分かりやすく見せたほうがいい」とのアドバイスをいただきました。想定されるユーザーに対して「どう見せるか」という点で、かなり助けていただいたことに感謝しています。

最も大きかったのは、プラットフォームのインターフェース(操作画面)を完成させたことです。未来社会創造事業のときはここまでのインターフェースはなく、詰めが甘かったと言われればその通りかもしれません。提案先も企業ではなく、JOGMECや経済産業省、場合によっては内閣府など、官庁が使うデータベースを想定していましたから。

結果的に半官半民の事業イメージとなり、大規模プロジェクト型には進めなかった苦い思い出があります。そこで対象から官を外し、ターゲットを民間に絞る中でNEDOチャレンジに出会いました。今回はプロダクトとして見せられるインターフェースが必要だと考え、山肩先生の力を借りて作り上げました。

山肩氏 鉱山は自然の中に人工物が混ざり、境界が曖昧で、そこを切り分けるのがとても興味深い。しかも時系列なので、専門家が示す離散的な正解の間をどう埋めるかも挑戦です。研究としての面白さがあり、それが社会の役に立つことが一番の魅力だと感じています。

国内外から多くの反響、共同研究のオファーも舞い込む

――開発ではどんな点に苦労しましたか。
松八重氏 機械学習といっても自動で進むわけではなく、教師データ作りには相当な人手がかかります。そこにどう予算を割くか、作業する人のスキルをどう伸ばすかは正直苦労しました。

ただ、NEDOチャレンジで1位を獲得したことは、一緒に取り組んできたポスドクや学生にとっても大きな刺激になりました。賞金以上に「この仕事が大事」と認めてもらえたことのほうが大きいです。「このデータベースをビジネスにつなげる」と明言することで自分も協力したい、貢献したいという気持ちが生まれる。その点でも良い効果がありました。

――すでに起業はスコープに入っているのですか。
松八重氏 これからじっくりと考えていきます。現在は(NEDOチャレンジとは別枠の)NEDOのビジネスインキュベーション支援を受け、ビジネスモデルの議論を継続しています。すでにデータベースや解析結果をビジネスで活用したいという要請もあることから、起業も選択肢の1つだと捉えています。

とはいえ、このプラットフォームそのものだけをサービス提供して起業するわけではありません。LCAの分野にはいくつかの有力なソフトウエアやデータベースがありますが、鉱山採掘周辺の環境負荷については情報がまだまだ不十分です。そこにアドオンのような形で、パッケージとして追加できる余地があるはずです。さらにデータベースを軸にしたコンサルティングも有望です。とくにASGMについては継続的な管理・監視の重要性が高まっているため、その分野でのコンサルティングやデータ提供を視野に入れています。

――受賞後の反響はいかがでしたか。
松八重氏 授賞式の映像を見た企業から「共同研究の可能性を探りたい」との問い合わせがありました。関心を持つ企業としては、自動車メーカーや部品メーカー、素材メーカー、商社、場合によっては保険会社も考えられます。我々の考えるサービスは、緊急医療や対処療法ではなく、予防医療・人間ドック的なESGの実現に向けた衛星インテリジェンスの提供です。例えば素材メーカーや組立メーカーが知らないうちに問題のある鉱物資源調達をしていたと分かったときに、事後的に対処するのではなく、事前にリスクの兆候を検知し、先手を打つことで深刻な状況が発生することを回避するための知を提供します。

ただし反応は国内より海外のほうが多いです。計算結果をエクセルやパワーポイントで示すより、システムとして動く点に強い関心を持たれています。まだショーケース段階ですが、こうした仕組みができつつあることは高く評価され、一緒に研究したい、共同で進めたいといった問い合わせを海外の研究者から多くいただいています。

欧州ではこの分野への関心が高く、研究開発にも多くの投資が入っています。研究成果やデータが商用化できる段階になると、次は規制や規格化の議論に進んでいく。だからこそ前もって議論をしていく必要があり、市場としてはグローバルを見据えています。

――今後の展望について教えてください。
松八重氏 カーボンニュートラルやゼロカーボンの達成に向けた技術導入に関わる資源リスクの可視化はもちろんですが、さらにネイチャーポジティブや、資源サプライチェーンに潜む社会的リスクの可視化にも貢献していきたいです。鉱物資源に関するネイチャーポジティブの議論は、ベースとなる情報が圧倒的に不足しています。自然資本に負荷を与えて製品が作られる以上は素材や流通の選択が重要ですが、判断材料がない。加えて、資源戦略を俯瞰して議論できる場がどこにあるのか分かりにくいことも課題です。

LCAはデータドリブンで物事を俯瞰する研究手法ですが、その中で衛星インテリジェンスがもたらす視点はますます重要になってきています。鉱物資源調達に関わる環境攪乱はフォーマルな採掘活動だけではなく、インフォーマルな採掘活動も数多くあります。それぞれに考慮すべき潜在的リスクが異なりますし、周辺の土地改変のスピードも大きく異なります。衛星画像の逐次解析をしながら、鉱山周辺の環境の変化について適切に監視・管理をし、政策判断や四半期ごとの意思決定につなげていく仕組みが求められています。資源の上流にある環境・社会的リスクの兆候を早期に検知し、先手を打つ点に関心を持つ人たちは増えてきていると感じます。我々の提供するサービスが、資源サプライチェーンリスクの適切な理解を促進し、より良い資源管理の実現に貢献できることを願っています。

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