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不燃ごみの中からX線とAIでリチウムイオン蓄電池を検知、増え続ける火災を防ぐ

「リチウムイオン蓄電池の検出装置(ポータブル型・設置型)」1位受賞者に聞く

NEDOは2025年1月22日、「NEDO懸賞金活用型プログラム」の第2弾となる「NEDO Challenge, Li-ion Battery 2025/発火を防ぎ、都市鉱山を目指せ!」のコンテストを開催しました。リチウムイオン蓄電池(以下、LiB)が回収物に混入することで引き起こされる廃棄物処理・リサイクル現場等での火災・事故等の課題に対し、処理工程における安全性を高めながら作業の円滑化に資する提案を募集。コンテスト上位者に懸賞金を交付する取り組みです。本事業で設けた2つのテーマのうちの一つ「リチウムイオン蓄電池の検出装置(ポータブル型・設置型)」のコンテストで1位を受賞した、株式会社PFU/株式会社IHI検査計測の担当者に話を聞きました。

PFU 事業開発本部 次世代事業開発室 RAPTOR事業開発部 シニアマネージャー 本江雅信氏(右)と、<br>IHI検査計測 機器装置事業部 保守技術部 主幹 野村博司氏(左)

PFU 事業開発本部 次世代事業開発室 RAPTOR事業開発部 シニアマネージャー 本江雅信氏(右)と、
IHI検査計測 機器装置事業部 保守技術部 主幹 野村博司氏(左)

世界に認められたビジョン技術で最も難しい領域に挑戦

――もともとPFUではLiB検知システムの開発を進めていたと伺いました。
本江氏 はい。PFUのイメージスキャナーはグローバルでトップシェアを誇り、多くのノウハウを蓄積しています。その光学的知見や認識技術、AIの技術力を融合した新規事業領域を開拓しており、2024年4月にはAIを活用したガラス瓶の自動選別システム「Raptor VISION BOTTLE」をリリースしました。そして現在、第2弾としてIHI検査計測と協力しながらLiB検知システム実用化に取り組んでいます。

取り組みの背景には、LiBによる発火や火災が大きな社会課題になっていることが挙げられます。年間の火災件数は1万件以上といわれ、そのうち約3分の2が「燃えないごみ」を扱う現場で発生しています。ただしこの分野の技術対応は非常に難しく、検知や除去が容易ではありません。そこで私たちは、あえてこの最も難しい領域にチャレンジしようと考え、開発を進めてきました。

東京都町田市では、これまでに3回大規模な火災が発生しており、いずれもLiBが原因である可能性が高いとされています。復旧総額には約14億円もかかっており、金銭的負担だけでなく、復旧の間に他自治体へごみ処理を依頼したり、火災の原因分析や住民への説明に追われたりするなど多大な工数が発生しました。市でも啓発活動を積極的に行っています。

例えば対策の一環として、収集運搬の際にごみ袋をすべて開け、中身を確認してからごみ収集車に入れるというとても手間のかかる作業を行っています。それでもLiBを取り除けるのはせいぜい半分程度とのことで、2025年7月には再び火災が発生してしまいました。現場では本当に苦労されており、私たちはこうした課題を解決するために町田市とともに取り組んでいます。同様の悩みを抱える自治体は全国的にも非常に多いのが実情です。

野村博司氏

――NEDO懸賞金活用型プログラムの応募動機を教えていただけますか。
本江氏 いくつか情報源はありましたが、印象に残っているのは上司から「こんなプログラムがあるぞ」と教えてもらったことです。内容を見た瞬間、「これはもう直球のテーマだ」と思いました。やるしかない、これは絶対に1位を取りにいこうという気持ちでしたね。

野村氏 我々もこのプログラムのことは知らず、PFUから教えていただき一緒にチャレンジすることにしました。LiB検知システムのプロジェクトがスタートしてちょうど1年ほど経った頃で、今までの取り組みの成果を試せる絶好の機会だと考えたからです。

X線2方向化と高度なAIにより認識精度を向上

――LiB検知システムの特徴は。
本江氏 投入されたごみはベルトコンベア上を流れ、途中の「検知部」でX線を使って透過画像を撮影します。その画像をAIが解析し、LiBが検知された場合は「通知部」でモニター、プロジェクター、音によって作業者に知らせます。これにより作業者がその場で除去できるようにすることで、取り逃しを防ぐ仕組みです。

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LiB検知システムの概要

使用しているのは「デュアルエナジーX線」と呼ばれる技術で、素材ごとの情報を判別できるタイプのX線です。通常の白黒画像ではなく、素材によって色が分かれて見えるため、認識の精度を大きく向上させることができます。さらに独自のAIエンジンによって画像処理や前段・後段の認識プロセスに複数のアルゴリズムを取り入れており、X線データをもとにしてより正確にLiBを検知できるようにしました。

「検知部」では2方向からX線を使って透過画像を撮影

「検知部」では2方向からX線を使って透過画像を撮影

2024年9月に町田市で実施した実証実験では、ごみ袋に入ったままの状態と、袋を破ってバラした状態の2条件でテストを実施しました。破袋前の状態で87%、破袋後では98%という高い検知精度でしたが、さらにこの1年で製品化に向けて改良を進めてきました。

以前は小型の手荷物検査用X線装置を流用して試作していましたが、処理量が限られていました。今回はごみ処理場で実際に使えるように大型化を進めました。まだ詳細な結果は公表できませんが、2025年8月に行った2回目の実証実験では確かな手応えを得ることができました。

流れてきたごみは「通知部」で<br>モニター、プロジェクター、音によって作業者にLiBの存在を知らせる

流れてきたごみは「通知部」で
モニター、プロジェクター、音によって作業者にLiBの存在を知らせる

ごみの中から、捨てられたスマートフォンを発見

ごみの中から、捨てられたスマートフォンを発見

――これまでの知見が強みにつながっているのですね。
本江氏 PFUでは長年、画像認識やAIの分野に携わってきました。通常はディープラーニングで学習データを投入してモデルを作るところで終わることが多いのですが、そこからさらに評価・分析を行い、課題を抽出して改良を重ねます。例えば1つのAIエンジンだけでなく複数のエンジンを組み合わせたり、多段構成にしたり、ルールベースを組み合わせたりなど、さまざまな工夫をしています。そうした積み重ねによって精度を高めていけるのが私たちの強みです。

――AIエンジンをPFU、ハードウエア本体と制御ソフトウエアはIHI検査計測が担当。IHI検査計測側で開発時に苦労した点はありますか。
野村氏 これまで扱ってきた手荷物や貨物と比べ、対象となるのが“袋やバラバラの廃棄物”だという点です。流れる物質の形状・サイズが不定形で、それに合わせてコンベアの構造もまったく変わってきます。我々にとっては初めての経験で、かなり苦労した部分でもあります。現在の装置は幅1メートルほどですが、1日あたり約72トンの処理が可能です。町田市のように人口40万人規模の自治体だと、可燃ごみの処理量はおよそ50トン弱なので、現行モデルでも十分に対応できる計算。実用レベルでの処理能力はすでに確保できていることになります。

本江雅信氏

――懸賞金プログラムの中で新たに得られた気づきはありますか。
本江氏 ある程度コンセプトや技術が固まっていたこともあり、我々としてはそれを磨き上げるフェーズでした。NEDOチームとは月1回ほどのペースでWebミーティングを行い、最終テストに向けて「どういう条件で試験を行うか」や「装置の開発状況の共有」といった情報共有を行いました。また、審査員や、同じ業界で課題解決に取り組んでおられる方々と挨拶を交わす機会があり、その後もやり取りが続いています。そういう意味では、業界内の人脈が広がったのは大きな成果だったと思います。

問い合わせが殺到、グローバル展開も見込む

――受賞の効果、反響はいかがでしょうか。
本江氏 現在、大手プラントメーカーからはほぼ一通り声がかかっています。さらにエンドユーザーからの反響も大きく、2025年5月に東京ビッグサイトで開催された「2025NEW環境展」に出展した際には、多くの来場者から「ぜひテストさせてほしい」という問い合わせが殺到しました。具体的な社数は明かせませんが複数の企業から正式な打診を受けており、今後の導入・実証に向けた動きが活発化しています。

――今後の展望について教えてください。
本江氏 2025年10月30日 にAIエンジンの「Raptor VISION BATTERY」を搭載したプラスチック選別ライン向け LiB検知システムをIHI検査計測とともに製品化しました。認識モデルについては顧客ごとの現場条件に合わせてさらなる精度向上が必要なため開発を継続していきますが、販売可能な状態まではほぼ到達している段階です。我々が担っているのは“ビジョンシステム”、つまり撮影と認識の部分までです。その先の装置組み込みや最終製品化は、他のパートナー企業にお願いするスキームになります。

PFUはこの技術をグローバルにも拡大していく方針です。今回のLiB検知技術もガラス瓶のときと同様に廃棄物分別特化AIエンジン「Raptor VISION」というブランドとして展開し、国内外のさまざまな現場で活用されることを目指しています。

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