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簡便な診断機と“安全に運べる箱”の二刀流で、リチウムイオン蓄電池発火問題を解決したい

「リチウムイオン蓄電池の発火危険性の回避・無効化装置」1位受賞者に聞く

NEDOは2025年1月22日、「NEDO懸賞金活用型プログラム」の第2弾となる「NEDO Challenge, Li-ion Battery 2025/発火を防ぎ、都市鉱山を目指せ!」のコンテストを開催しました。リチウムイオン蓄電池(以下、LiB)が回収物に混入することで引き起こされる廃棄物処理・リサイクル現場等での火災・事故等の課題に対し、処理工程における安全性を高めながら作業の円滑化に資する提案を募集。コンテスト上位者に懸賞金を交付する取り組みです。本事業で設けた2つのテーマのうちの一つ「リチウムイオン蓄電池の発火危険性の回避・無効化装置」のコンテストで1位を受賞した、株式会社電知の代表取締役 向山大吉氏に話を聞きました。

電知 代表取締役の向山大吉氏

電知 代表取締役の向山大吉氏

自社技術をベースに“安全性に関わる技術開発”に活路を見出す

――1位受賞おめでとうございます。まずは懸賞金活用型プログラムの応募動機を教えていただけますか。
向山氏 もともと私たちは、電池を放電して診断する機械を開発していました。ハイブリッド車に使われる電池をリユースする際に、その状態を正確に把握するための診断機です。ただし今の日本はEV市場が踊り場にあり、この分野だけで事業を成り立たせるのは難しい状況です。そこでより特化した分野を深掘りしようと考えていました。

他の分野を模索している中で、「もしかしたら自分たちにしかできないのでは」と感じたのが安全性に関わる技術開発の分野でした。そこに活路を見出し、タイミングよくNEDOの懸賞広告を発見して今回の提案と開発につながりました。懸賞金プログラムがユニークなのは、既存技術をうまく応用しながら新しい価値を生み出せるということ。挑戦する側にとって柔軟で優しい事業だと思います。

当初は消火剤や最終処理工程の対策を想定しましたが、私たちの得意分野を生かせるのはそこではないと思い、むしろその「間」、つまり処理の前段階で放電作業を安全に行える仕組みを考えました。消費者や専門業者の方々が安心して放電できるようにする——そこに自分たちのコンセプトを置いたのです。最終的には自社の技術を生かした「放電診断機」と、放電できないLiBについては「安全運搬ボックス」を組み合わせた2つの内容で提案しました。

提案した「放電診断機」「安全運搬ボックス」の概要と仕組み

提案した「放電診断機」「安全運搬ボックス」の概要と仕組み

現場の方々と直接会い、初めて切実なニーズを実感

――開発にかける思いはどんなものでしたか。
向山氏 そもそもLiBがエネルギーを持たない状態にしてから最終処理に回せば、最も安全で効果的です。安全に処理できれば、NEDOが懸賞金プログラムのテーマに設定した廃棄物処理・リサイクル現場等での火災・事故は本来起きないはずです。しかし実際は、消費者の段階で放電などの安全処理ができていないことが原因で、破砕やリサイクルの後工程でトラブルが発生しています。

驚いたのは、プログラムが始まったわずか半年後の2025年1月に埼玉県川口市の清掃工場で大きな事故が起きたことです。小型家電のLiBが原因とみられる火災が発生して工場が使えなくなり、被害額は約65億円にもなりました。数年前にもLiBを焼却した際に爆発事故が起き、人命に関わるケースもありました。そうした危険を未然に防ぐには、やはり“最初の段階”で安全に放電処理することが重要だと思います。

――プログラムの中で新たに得られた気づきはありますか。
向山氏 現場の方々と直接やり取りする機会は役立ちました。中でも埼玉県戸田市の清掃工場の方々とミーティングを重ね、実際の現場の声を伺うことができた経験は大きかったです。今回のような懸賞金プログラムがなければ接点もなかったので貴重な経験になりました。

また、実際に埼玉県坂戸市の廃棄物処理施設を訪問し、家電を1つずつ丁寧に分解している現場も拝見しました。本当に属人的で、危険も伴う作業です。しかもノウハウが共有されにくく、普段の業務の合間で対応されていることもあってとても大変そうでした。

これまでは社会課題としてぼんやりと捉えていましたが、現場の方々と直接お会いして初めて切実なニーズを実感しました。最終処理が安全に完結できればこうした分解作業も不要になると思いますが、現実的にはまだ難しいと感じています。

――放電診断機に関して開発時に苦労した点はありますか。
向山氏 事業化済みの診断機には、少しオーバースペック気味に5アンペアほどまで放電できる機能を搭載していました。ですから「これを使えばNEDOのお題も簡単にクリアできるだろう」と思って応募したのです。ところが想定以上に難しい条件がありました。というのも、私たちは端子がむき出しになったLiBを想定していたのですが、NEDOの課題は「家電製品の中に入った状態のLiB」を放電する技術だったからです。

例えばモバイル扇風機のような製品では、ファンが壊れてしまうと電池が満充電のまま捨てられてしまいます。この場合は自然放電を待つしかなく、非常に危険です。しかも多くのUSBポートは充電専用で、放電機能を持っていません。

そこで私たちは充電専用USBの回路に一手間加え、微弱な振幅を持つ特殊なパルス波形を流して放電を可能にする方法を開発しました。これにより「製品に入ったままの状態」で放電できるようにしたことが高く評価された理由の1つだと思っています。この特殊なパルス制御は現在特許出願中です。

開発した放電診断機

開発した放電診断機

――もう1つの「安全運搬ボックス」は独創的ですね。
向山氏 リサイクルの過程で放電できなかったり、熱を持って危険な状態だったりする電池を一時的に避難させるための安全箱です。この箱を私たちは「DENPOI(デンポイ)」と名づけました。危険な電池をそのまま箱に放り込むだけで発火を防ぐことができます。提案の中で「こういう箱が必要だ」という話になり、構想が進んだものです。

安全運搬ボックス「DENPOI(デンポイ)」

安全運搬ボックス「DENPOI(デンポイ)」

放電診断機がハイテクであるのに対し、DENPOIはあえてシンプルでローテクな構造にしました。仮に箱の内部で発熱が起きても、その熱を感知して砂が自動的に落下し、延焼を防ぎます。黒煙も出さず、誰でも簡単に扱える安全設計を目指しました。発想としては「危険を熱で封じる箱」です。

最初はリサイクル回収拠点での使用を想定していましたが、現在はもっと消費者に近い場所でも活用したいと考えています。LiB内蔵製品が増える中で、学校や家庭などで安全に使える仕組みが求められているからです。実は今、使用中の機器が発火する事例が多く、とくにGIGAスクール構想で導入された小中学校で使われているタブレットなどが原因になることが増えています。消火器の横に置いて、火が出た際に中に放り込むだけで安全を確保できる──そんな日常的な防災ツールとしての展開も視野に入れています。

反響は上々、肌で感じるLiB問題への高まり

――受賞の効果、反響はいかがでしょうか。
向山氏 反響は非常に大きく、効果を実感しています。1位を取ったこと自体が追い風になって注目され、さまざまな企業からお声がけをいただくようになりました。受賞直後は正直そこまで問い合わせが多くありませんでしたが、総務省が2025年4月にLiB火災に関する通達を出して以降、状況が一変しました。そこから一気に問い合わせや相談が急増し、社会全体の関心の高まりを肌で感じています。

例えばDENPOIに関しては、大手通信企業から「この製品の拡販に協力したい」とのお話をいただいています。安全性と実用性の両面で関心を持たれており、今後の展開に向けて大きな後押しになると感じています。放電診断機にも各社から関心を持っていただいていますが、DENPOIのほうが実用化までのステップが早いこともあって、すぐに一緒に進めたいという声が多いですね。

――今後の展望について教えてください。
向山氏 放電診断機は2026年度中の商品化を目標としています。DENPOI は現在、大企業の方々と連携しながら量産体制の検討段階にあり、耐圧シミュレーションなど安全性を担保するための技術検証を重点的に進めているところです。

あわせて中古電池だけでなく、新品電池の診断計画に関しても進行中です。安全性を確かめる観点ではどちらも重要ですし、広く見ればこれも新たなビジネスの展開につながる取り組みだと考えています。

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