「NEDO水素インフラ技術開発ロードマップ」の狙いとは
「NEDO水素・アンモニア公開シンポジウム2026」で説明
目次
モノづくり日本会議とNEDOは2026年9月14日、第63回新産業技術促進検討会シンポジウムにて「NEDO水素・アンモニア公開シンポジウム2026」を開催しました。現在、カーボンニュートラル実現に向けて、新たなエネルギー源である水素・アンモニアの技術開発や社会実装が産学官一体となって進められています。本シンポジウムでは、「NEDO水素インフラ技術開発ロードマップ」の考え方に加え、水素・アンモニア政策、価格差支援、水素大動脈構想、燃料アンモニアの普及、民間企業による水素サプライチェーン構築など、社会実装に向けた幅広い論点が共有されました。特に、需要と供給を同時に立ち上げること、国際標準化や人材育成を進めること、関係者との対話を通じて次の研究開発テーマにつなげることが重要な視点として示されました。
「NEDO水素・アンモニア公開シンポジウム2026」の様子
取り組むべき技術を時間軸で整理した
まず、開会挨拶で登壇したNEDOの松本理事は、水素社会は個別の企業だけでは実現できないことを強調し、次のように述べました。「地球全体の課題として総力を挙げて挑戦し続けることが重要です。日本は水素やアンモニアの技術でリードしていて、その取り組みは世界からも関心が寄せられています。今日のシンポジウムでさらなる検討が進むことを期待しています」。
NEDOの松本理事
「NEDO水素インフラ技術開発ロードマップ」については、NEDO 水素・アンモニア部 水素SCチーム チーム長の坂秀憲氏が説明しました。これは、経済産業省やNEDOがこれまで公開してきた政策やロードマップを基に策定したものです。具体的には、現在の水素インフラの普及状況、グリーンイノベーション(GI)基金事業の進捗、価格差支援制度などの新たな政策および国内外の情勢変化等を反映した新たなロードマップが必要との認識から作成しました。
坂氏は、次のようなポイントを踏まえたロードマップにしていると語りました。「2030年を『市場立ち上げ』、2040年を『導入拡大・本格普及』、2050年を『市場の自立化・最適化』と位置付け、それぞれにおける『供給』、『需要』、『技術』を描いています。そのうち技術に関しては、大量供給や大規模発電を対象にした『大規模サプライチェーン』、地域に展開する『需要地水素サプライチェーン』、モビリティ分野の需要を拡大する『水素ステーション』、および、材料、安全、規制、国際標準化、データ整備、人材育成などの『共通基盤』という4つの領域を対象に、取り組むべき技術を上記の時間軸で整理したものとなっています」。
坂氏は、ロードマップの活用について次のような期待を述べました。「NEDOは、このロードマップと整合した研究開発を推進していくとともに、事業者の皆さまとの対話の出発点として活用していきたいと考えています。そして『みんなで創って、みんなで育てる、水素・アンモニアサプライチェーン』をコンセプトに、競争ではなく共創・共育を進めていければ嬉しく思います」。
NEDOの坂氏
なお、「NEDO水素インフラ技術開発ロードマップ」は、全体像のほか、詳細技術、技術開発の背景や根拠、および国内外の政策や動向を整理し、ロードマップ・解説書の二部構成で、NEDOのWebサイトに公開しました。
2040年、水素が当たり前の社会へ
シンポジウムでは、「今後10年、20年を見据えた我が国の水素戦略の方向性について」と題したパネルディスカッションも行われました。2040年の水素社会はどうなっていてほしいか、という話題については、多くのパネリストが「水素が身近な存在になっていてほしい」「水素が当たり前となり、水素社会という言葉すらなくなっていてほしい」といったコメントを寄せていたのが印象的でした。
パネルディスカッションの様子。モデレータは、PwCコンサルティング合同会社 公共事業部 シニアマネージャーの菊池雄介氏(左)
そのほかの議論の様子は次の通りです。まず、「産業界の動向や需要の創出」というテーマについて、水素バリューチェーン推進協議会(JH2A) 事業部長 兼 事務局長代理の斎藤健一郎氏は、需要と供給を同時に立ち上げる必要があると指摘しました。「水素やアンモニアの活用はよくニワトリと卵にたとえられますが、どちらが先ではなく、同時に立ち上げていく必要があるでしょう。JH2Aが『水素大動脈構想』(詳細は後述)を提唱したように、まずは背骨の部分の構築を集中的に進めていくことが重要だと思います」。
独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC) エネルギー事業本部 水素事業部 担当審議役(兼)価格差支援課長の竹下聡美氏は、価格差支援の認定計画から見えてきた傾向として、利用事業者による事業計画への長期的なコミットメントが、事業化の確度を高める重要な要素だと述べました。「案件形成には、供給事業のみならず、利用事業者が必要な設備投資や価格転嫁を含め支援期間の先を見据えた長期的な事業計画を描けるかが、重要な条件となっています 。また、国内グリーン水素案件は輸送コストも踏まえ、需要地近接型の分散モデルにも合理性があると考えています」。
次に、「ビジネスを進めていくために必要となる要素」について議論が進みました。
川崎重工業株式会社 水素戦略本部 シンクタンク部長の小出啓介氏は、水素やアンモニアの価値を社会にアピールすることを挙げました。「水素やアンモニアをエネルギー源のひとつとしてコスト以外でも社会から選んでもらえるように、その価値や意義について啓発やアピールを進めていくことは重要です。また、水素の取引を対象にした国際ルールの整備も必要だと思います」。
一般社団法人 クリーン燃料アンモニア協会(CFAA) 専務理事・事務局長の青山勝博氏は、「アンモニアの輸出国から日本を輸出先として選んでもらうには、たとえば火力発電での利用などの技術を相手側に提供できるように、技術立国として技術を積み上げておく必要があります。当然ながら人材育成も重要です」と述べました。
最後に、「水素やアンモニアの分野で日本が世界をリードするために何を優先すべきか」というテーマについては、経済産業省 資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部 水素・アンモニア課 課長補佐の奥村滉太郎氏が次のように述べました。「水素社会を加速していくには、需要創出を後押しする政府の役割がとても重要です。先日の水素閣僚会議でも、国際連携による持続可能な市場創出とあわせて、その必要性が話題になりました。日本が技術だけでなくビジネスでも、どうやって国際的な競争力を高めていくのか、国際標準化の議論を日本がどうリードしていけるのか、また、水素やアンモニアの安定的かつ低コストなサプライチェーンの構築をどう図るかなど、さまざまな課題に取り組んでいきます」。
また、NEDOの坂氏は「NEDO水素インフラ技術開発ロードマップ」を話題に挙げ、「ロードマップを起点に、企業、大学、自治体の皆さまと対話を続けながら、新しい課題を見つけて、必要な技術を見極めて、次のプロジェクトにつなげていきたいと考えます。今、最も良いプロジェクトを始めた国が勝者になるでしょう。また、ロードマップを読む人でなく、ロードマップの続きを一緒に描く人を増やしたい」と語りました。
経済産業省や各業界団体による講演も
シンポジウムではこのほかにもさまざまな講演がありました。それぞれの講演のポイントを紹介します。
「水素・アンモニア政策の方向性」 経済産業省 奥村氏

「世界では、足下で案件の選別が進みつつも、水素・アンモニアの需要や投資は着実に進展しています。日本政府は安全保障の観点からも水素・アンモニアを重要なエネルギー源として位置付けていて、水素基本戦略の策定、コスト目標の設定、水素社会推進法に基づく価格差に着目した支援などの取り組みを進めてきました。また、政府が策定した『官民投資ロードマップ』において、『水素等』は、『資源・エネルギー安全保障・GX』分野における主要な製品・技術等の一つとして位置づけられています。水素大動脈構想の実現に向けて、福島・東京・神奈川・愛知・兵庫・福岡の重点地域と幹線道路へのFC商用車導入とステーション整備の整備を一体的に進める等、引き続き官民一体となって、『つくる』『はこぶ・ためる』『つかう』全体を通じてサプライチェーンの構築を推進していきます」。
「水素大動脈構想実現に向けたJH2Aの取り組み」 JH2A 斎藤氏

「JH2Aは水素のバリューチェーンの確立を目的とした業界横断の組織で、企業や自治体などおよそ500社・団体が会員として名を連ねています。JH2Aは、水素の需要を増やす一つの手段として、物流セクターでの水素利用を拡大する『水素大動脈構想』を2026年5月に高市首相に提言しました。また、水素を利用した製品やサービスを従来よりも1%多く調達する『水素1%調達宣言』には60社・団体以上が賛同しています。水素の普及のためには、水素の価格だけではなく、機器や設備を含めたTCO(総所有コスト)をいかに抑えていくかが重要です。国にも支援を求めながらバリューチェーンの確立に取り組んでいきます」。
「価格差支援・拠点整備支援について」 JOGMEC 竹下氏

「JOGMECは資源・エネルギーの安定的かつ低廉な確保をミッションとする独立行政法人で、水素社会推進法に基づき価格差支援と拠点整備支援の執行法人の役割を担い、また経済産業省に対し認定審査の支援を行っています。低炭素水素等の製造等にかかる基準価格と参照価格の差額を助成する価格差支援では、これまでに国内グリーン水素案件3件、海外の低炭素アンモニア案件3件を含む計7件が経済産業省から計画認定され、供給開始に向けて事業が進捗しています。支援を受けるには法令に基づき水素製造等に伴う炭素集約度(カーボン・インテンシティ、CI)が閾値を下回る必要があります。JOGMECではCIの算定や確認方法について、認定事業者と連携し、実運用を見据えたガイドライン化を進めています」。
「燃料アンモニアの普及とロードマップについて」 CFAA 青山氏

「CFAAはアンモニアのバリューチェーンの構築や技術開発を推進することを目的に2019年に設立されました。アンモニアには、直接燃料として使える、クラッキングによって水素が得られる、マイナス33℃で液化するため輸送や貯蔵が容易、といった特徴があります。日本では、船舶、火力発電、ガスタービン発電、工業炉などでアンモニアが燃料として利用可能で、燃焼を含む関連技術は世界の最先端を進んでいます。将来はクラッキング技術と合わせると水素を供給することもできます」。
「川崎重工の水素戦略について」 川崎重工業株式会社 小出氏

「川崎重工業は2010年に水素をエネルギーとして利用するビジョンを発表し、個別の装置の開発だけではなく、サプライチェーン全体の構築に取り組んできました。現在は『水素起動2030』をテーマに、2030年までの水素サプライチェーンの商用実装を目指しています。水素タンクを積んだパイロット船を使い、船舶と陸上設備とを連携するオペレーションの実証を完了したほか、GI基金を利用して液化水素サプライチェーンの商用実装を進めています。併せて、水素の取引などに関する国際標準化にも取り組んでいます。技術実証で終わることなく水素市場の創出を目指します」。