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ヘルスフードテック ―食とテクノロジーで「誰もが健康で食事に困らない社会」をめざす―

ヘルスフードテック ―食とテクノロジーで「誰もが健康で食事に困らない社会」をめざす―

もし、あなたの体調や生活リズム、将来の疾病リスクに合わせて、その日「何をどう食べればよいか」が自動的に設計され、しかもおいしく手元に届くようになったら──。

こうした未来の食のあり方を切り拓く鍵が「ヘルスフードテック」です。ヘルスフードテックは、フードテックの中でも「健康・栄養」に特化した領域で、食品の健康機能性の解明と、個々人に最適化された食の提供を通じて、健康寿命の延伸と医療費・介護費の抑制をめざす取り組みです。アグリ・フードテック分野では「食料安全保障の強化」につながる「質の確保」を担う中核として位置付けられ、「誰もが健康で食事に困らない社会」を実現するフロンティア領域候補とされています。

世界的に高齢化が進むなか、健康志向の高まりやヘルスケア市場の拡大により、2050年にはフードテック世界市場約279兆円のうち約2割をヘルスフードテックが占める可能性があります。日本でも、公的保険外のヘルスケア市場が約77兆円、そのうち食関連が約8.7兆円規模になると見込まれ、食と健康を結ぶ新たな産業領域として大きな期待が寄せられています。

ヘルスフードテックを支える技術は多岐にわたります。第一に、血圧上昇抑制やストレス緩和などの機能に着目した食品開発です。ゲノム編集を用いてGABAを多く含むトマト、アレルギーの原因となるたんぱく質を除去したアレルギー低減卵、天然毒素のできにくいジャガイモなど、安全性と健康機能を両立した作物が開発されつつあります。これらは動物実験やヒト介入試験など科学的エビデンスに支えられることで、消費者に「効き目の見える食」として受け入れられやすくなります。

第二に、「おいしさ」と「機能性」の見える化です。甘味の感じ方を時間変化も含めて定量評価する装置や、高感度分光分析により非破壊で機能性成分を測定する技術が開発されており、作物の糖・酸・機能性成分を生育中からモニタリングできます。これにより、スマート農業と連携した高付加価値な健康志向食品の安定供給が期待されます。

第三に、個別化栄養とデータ駆動型のサービスです。血中・尿中マイクロRNAを用いた「未病判定」と食事改善の組み合わせ、軽度不調と栄養成分の関係解明に基づくメニュー設計、血糖値や血圧などのデータからAIが最適な食事を提案する「AI食」など、個人の体調・嗜好・腸内細菌叢・メタボローム(代謝物プロファイル)・遺伝情報等に応じたきめ細かな栄養設計が検討されています。将来は、3Dフードプリンタにより咀嚼・嚥下機能に合わせた介護食・病院食を個別に作ることも視野に入ります。

日本は、高齢化の進行、食の安全・健康志向の高さ、日本食の健康機能性に関する知見、ヘルステック全般の技術力など、ヘルスフードテックに適した土壌を有しています。一方で、長期にわたるヒト介入試験、機能性成分や個人データの蓄積・活用ルール、食品衛生法等の制度対応、表示・コミュニケーションを通じた消費者の信頼確保など、民間だけでは解決しにくい課題も多く存在します。

産学官が連携して、食に関する課題解決や新市場の開拓に取り組むフードテック官民協議会などの枠組みも活用しながら、技術開発と社会受容・ルール形成を一体的に進めることが重要です。これにより、ヘルスフードテックを日本発の戦略的フロンティア領域として育て、世界の高齢化社会に先駆けて新たな価値を生み出していくことが期待されています。

※参考情報
Innovation Outlook Ver1.0
Innovation Outlook Ver.1.0 Executive Summary
Innovation Outlook Ver1.0 増補版

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