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天然水素-環境性能と低コストを両立する理想的なエネルギー源-

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もし、エネルギー源となる水素が石油や天然ガスのように地面から湧き出てきたら―――

このような夢のような話が現実に近づいています。それが、注目度が高まってきた「天然水素」です。天然水素は地球の地殻活動や化学反応によって生まれる水素を指します。天然水素は世界の脱炭素化を加速し、日本のエネルギー自給率向上と産業革新を促す資源になる大きな可能性を秘めています。

天然水素の生成プロセスには様々なパターンがあることが分かっています。例えば、かんらん岩など鉄を豊富に含む岩石と水が反応するプロセス、花崗岩(かこうがん)など放射性元素を多く含む岩石と水が反応するプロセス、また、地球深部のコアやマントルから水素が上昇してくるプロセスなどです。特に、鉄分を多く含むかんらん岩と水が反応して蛇紋岩(じゃもんがん)になる過程で水素を生み出す「蛇紋岩化反応」は、他の生成プロセスよりもスピードが速いため、エネルギー利用に向けて特に注目を集めています。

蛇紋岩化反応を利用して水素を生成する方法としては、地下に貯留されている水素を回収するものと、かんらん岩、熱など水素を生成するのに適した環境にある地下を工場として利用し、そこに水を供給して人工的に水素を生成するもの、の大きく2つに分類できます。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、後者の人工的に水素を増進する手法に注目して研究開発を進めています。天然水素を「新たなクリーンエネルギー資源」として位置付け、天然水素資源の探査・実用化を目指した研究開発を積極的に進めています。日本列島は地殻変動の影響で地下深部にかんらん岩が点在しており、この特異な地質条件が天然水素生成に適しているとされています。

NEDOはこうしたアドバンテージを最大限に活用し、技術開発を進めることで、天然水素の商業化や次世代のエネルギー革新に寄与するというビジョンを掲げています。国産の安価なクリーン水素を得ることができれば、日本のエネルギーセキュリティーや自給率の向上の点でも重要であり、また国内の産業振興や地方創生も期待されます。20252月には石油技術協会および石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)と連携し、「天然水素ワークショップ」を開催しました。この場では、日本が持つ地質学的な特性を基に国内の天然水素資源の可能性を評価し、エネルギー自給率向上や脱炭素社会の実現という観点での議論を深めました。

環境性能と低コストを両立する理想的なエネルギー源

NEDOが天然水素に注目するのは、その環境性能とコスト効率の高さも理由です。水素は燃焼時にCO₂を排出しないという特性を持ち、脱炭素社会の実現に直結する理想的なエネルギー源であるとされていますが、従来の水素製造方法には課題がありました。例えば、天然ガスを用いた水素製造は安価である一方、製造時に大量のCO₂を発生させるため、環境への影響が懸念されていました。一方、水の電気分解による水素製造はクリーンですが、高い電力コストのため商業的競争力が低いことが課題でした。天然水素は地下の鉱物や温度環境などを利用できるため、生成時にCO₂の排出を削減できる特徴があります。さらに、天然水素のコストは0.5-1ドル/kg7-14/Nm3)程度との試算もあり、日本政府が掲げる2050年目標の水素価格(20/Nm³)を大きく下回る可能性があります。

NEDOはこの低コスト性が天然水素の実用化の鍵となると考え、国内外のデータを基に世界の湧出事例を分析しています。また、井戸水から湧き出る約97%純度の水素ガスで発電が行われているアフリカ・マリの成功例は、天然水素が持つさまざまな可能性を示す好例として注目されています。こうした実用化の可能性を背景に、NEDOは天然水素を未来のクリーンエネルギー供給源の一つとして確立するべく取り組んでいます。

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