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NEDO事業の成果が「CEATEC AWARD」を受賞

先端半導体の未来を日本発の技術で切り拓く

2025年に開催された「CEATEC AWARD 2025」において、ヤマハロボティクス株式会社は「AIの進化に貢献する、環境配慮型チップオンウエハダイレクト接合技術の開発」により「イノベーション部門賞」を受賞しました。この栄誉ある賞の基盤となったのが、NEDOの「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」において取り組んだ、「ポスト5G向けチップオンウェハダイレクト接合3D積層統合技術開発」の研究成果です。本研究は、共同研究先である国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)および学校法人東京理科大学(理科大)と共に進められ、今回の受賞も3者連名でのものとなりました。

ウエハの上に直接チップ(Chip on Wafer、COW)を実装・接合する同技術を利用すれば、最先端半導体を高い生産性と高歩留まりで製造できる点が特徴です。AI分野の進化を支える基盤技術として、そのイノベーション性が高く評価されました。実用化に向けて歩みを進める中で、ヤマハロボティクスはなぜこの技術に注目したのか。開発の過程でどのような困難に直面し、それをどう乗り越えてきたのか。そしてNEDOとの関係性は、研究開発にどのような影響を与えたのか。中村亮介代表取締役社長と、プロジェクトマネージャーとして技術開発を先導した技術研究本部新事業開発部の菊地広氏に話を聞きました。

ヤマハロボティクス 代表取締役社長 中村亮介氏

ヤマハロボティクス 代表取締役社長 中村亮介氏

4社統合で描いた先端半導体分野への成長戦略

ヤマハロボティクスの主力事業は、半導体後工程製造装置および電子部品組み立て装置事業です。ヤマハ発動機のロボット部門をルーツに持つ同社にとって、大きな転機となったのが2019年でした。この年、株式会社新川とアピックヤマダ株式会社の2社を買収。さらに新川の傘下にあった株式会社PFAも含め、業務の統合を進めました。新川、アピックヤマダ、PFAはいずれも半導体後工程製造装置を主力とする企業です。世界的に競争が激化する半導体分野において、トータルソリューションを提供できる体制を構築するため、4社の力を結集。業界内においてリーダーシップを取ることを目的として統合を決めました(4社を完全統合し、社名をヤマハロボティクスとしたのは2025年7月)。

「買収後に様々な基盤を整えた2021年、中期経営計画の中で、改めて先端半導体分野に注力していくことを決めました」と中村社長は振り返ります。先端半導体は各国にとって戦略物資であり、当時から市場の成長が見込まれていました。「社内の様々な意見を踏まえたうえで、先端半導体への取り組みを会社の成長戦略の第一に位置付けました」(中村社長)。

資金不安を乗り越え本格開発へ踏み出す

先端半導体の製造工程の中でも、ヤマハロボティクスが開発項目として着目したのが、COWダイレクト接合技術です。一般的に、チップはウエハに形成されたバンプ(突起構造)によって接続されます。しかし、半導体の微細化が進むにつれて、バンプも極めて微細になりつつあります、そこで現在、実用化に向けて研究開発が進められているのが、バンプを完全になくすCOWダイレクト接合です。バンプをなくすことで、構造がシンプルになり、インダクタンスの低減や放熱経路の確保といった大きなメリットがあります。一方で、異物を徹底的に除去する必要があることや、極めて高精度な位置合わせが求められるなど、実現には高い技術的ハードルが伴います。

ヤマハロボティクスには、統合前の新川の頃からCOWダイレクト接合の基礎開発に取り組んできた知見がありました。今後の技術動向を見据えると、バンプ微細化からCOWダイレクト接合への流れは必然であり、事業成長のためにも基礎研究は不可欠だと判断しました。また、日本発の技術としてこの分野をリードするため、産総研や理科大といったCOWダイレクト接合の実現に欠かせない技術を有する研究機関との話を進めます。

一方で、中村社長は当時を振り返り、「開発を進めるうえでは資金面に不安があった」と語ります。COWダイレクト接合を実現するには、多くの要素技術の開発が必要であり、その費用を自社単独で賄えるかどうかが大きな課題でした。「NEDOの助成事業に採択されたことで、本格的に開発を進める踏ん切りが付きました」(中村社長)。2022年8月、採択決定を契機に、研究開発は本格的に動き出しました。

クリーンルームと試作チップがもたらした飛躍

COWダイレクト接合の研究は、産総研つくばセンター内に新たに設置されたクリーンルームで進められました。菊地氏は、新川の頃にも同技術の開発を担当していました。「当時は専用のクリーンルームがない環境で開発を進めていました。最先端技術の開発には最先端の環境が不可欠です。高価なクリーンルームを活用できたことは、非常に大きな意味がありました」(菊地氏)。

ヤマハロボティクス 技術研究本部新事業開発部 菊地広氏

ヤマハロボティクス 技術研究本部新事業開発部 菊地広氏

加えて、開発に不可欠なTEG(Test Element Group)チップと呼ばれるテストチップの試作にも助成金を有効活用しました。最先端のCOWダイレクト接合技術を検証するには、チップ自体も最先端である必要があります。しかし、そのようなチップを供給できるメーカーは限られており、テスト用途であっても容易に入手できません。産総研の施設を活用し、一部の製造工程をクリーンルーム内に新たに設置することで、開発に必要な量のTEGチップを確保することができました。

“光と水”となったNEDOのサポート

資金面での支援に加え、特に大きな価値を感じたのが、NEDOによる伴走型のサポートでした。助成事業の推進中は、月例会議などを通じて開発状況をプロジェクト担当者が把握し、専門的かつ客観的な視点からアドバイスが提供されます。「目標設定は適切か」「実験データは十分か」「結論に論理的な飛躍はないか」など、アドバイスは多岐に渡ります。また、関連論文の紹介など、アイデアを促進する情報も用意してくれたといいます。

「開発途中では多くの困難がありました。そのような時、プロジェクト担当者の方々からの励ましやアドバイスが大きな刺激になると共に、私たちのモチベーションを高めてくれました」と菊地氏は語ります。家庭菜園を趣味とする菊地氏は、基礎研究の段階を苗の育成に例えます。「苗を育てるには光と水が必要です。NEDOのプロジェクト担当者の方々は、開発を進めるうえで、まさに継続的に光と水を与えてくれた存在でした」(菊地氏)。

最大の壁「異物」を突破するための技術開発

ヤマハロボティクスでは、開発フェーズごとに明確な目標設定と評価を行い、COWダイレクト接合の実用化にメドを付けました。今回の開発を支えた柱となる技術は三つあります。それは、環境に配慮した水素水を用いる「異物除去洗浄技術」、不透明なシリコンくずや半透明の樹脂系異物を確実に検出する「異物検査技術」、完全非接触でチップに触れることなく搬送する「超音波非接触ハンドリング技術」の三つです。

ヤマハロボティクスが新たに開発した三つの要素技術

ヤマハロボティクスが新たに開発した三つの要素技術

ヤマハロボティクスが新たに開発した三つの要素技術

ウエハとウエハ(Wafer on Wafer、WOW)のダイレクト接合は、すでにメモリ分野などで実用化が進んでいます。一方、COWのダイレクト接合の実用化が難しい最大の要因が、チップに付着する異物への対応です。ウエハは清浄な環境で作られるため異物の影響が少ないのに比較して、チップはウエハから切り出される際に、多くの異物が付着します。「異物の大きさはサブミクロンレベル。後工程ではこれまで経験のない未知の領域でした」(菊地氏)。

異物除去には、前工程で実績のある水素水洗浄技術を採用しました。独自設計の洗浄機をクリーンルームに設置し、多数のTEGを用いて洗浄プロセス検証を実施。樹脂などの有機系物質とセラミックスなどの無機系物質では洗浄条件が異なるため、水素水を使用するという軸はぶらさず、段階的に洗浄するプロセスを確立しました。

検査工程では、光の位相差を利用して異物を見つける装置を試作しました。顕微鏡では見つけにくい透明な異物も、格子状の光をあてて位相差を見ることで、検出が可能となります。この原理を用いてサブミクロンレベルの透明な異物も検出できるように装置を最適化しました。

洗浄後のチップは、清浄なまま接合しなくてはなりません。その搬送には、超音波を利用します。超音波で微小な振動を発生させると、その面に非接触でモノが吸着するという現象を利用しました。このノウハウを保有する理科大の知見を活かし、微細チップ用の治具開発と、各種条件の最適化を進めました。

ヤマハのDNAで目指す社会実装

これらの技術の先進性が評価され、CEATEC AWARD 2025ではイノベーション部門賞を受賞しました。「昨今、半導体が注目されているとはいえ、その製造工程は地味で目立ちにくい分野です。そこに光を当ててもらえたことを非常に光栄に思います」と菊地氏は語ります。

「CEATEC AWARD 2025」イノベーション部門賞の賞状

「CEATEC AWARD 2025」イノベーション部門賞の賞状

また、「海外の企業も含めて我々の技術に注目が集まり、協業などを視野に入れた相談が増えています」と中村社長は受賞の効果について語ります。「CEATEC会場では、説明員に対して熱心に質問を投げかける学生の姿も印象的でした」(中村社長)。

CEATEC AWARDでは、多くの審査員に評価を受けたものの、現在の成果は研究室レベルにとどまっており、今後はプロトタイプ開発、量産化と段階を踏んで社会実装を目指します。「2030年までに、COWダイレクト接合が多くのユーザーに必要とされる時代が来ると見ています。そこまでには実用化のメドをつけていきたいです」と中村社長は意気込みを語ります。

2022年、挑戦的なテーマに本格的に取り組みことを決断した経営判断について、菊地氏は「これこそがヤマハのDNAだと感じました」と振り返ります。社会実装に向けて、さらに困難が予想される中でも、ヤマハのDNAの元、同社は高いモチベーションを保ちながら挑戦を続けていきます。

今回のインタビューを通して、先端半導体の需要は今後も旺盛になる一方で、高い生産性と高歩留まりで製造することには多くの課題があることも明らかになりました。そのような課題を乗り越えるためには、各種の材料開発で世界をリードするとともに、製造装置においても高いシェアを誇る日本の技術開発が不可欠になります。NEDOはこうした事業者の取り組みを後押しすることを通じて、日本の産業技術の向上と企業化の促進に貢献していきます。

※所属・肩書きは取材時(2026年1月)のものです。

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