Focus NEDO

NEDOは2024年12月より、日刊工業新聞の科学技術・大学面において、「NEDO未来展望~イノベーションを社会へ~」と題し、NEDOが推進しているプロジェクト等について、その概要や特徴、目標、現時点での成果等をプロジェクト等の担当者が執筆・紹介しています(年末年始を除く毎週水曜日に掲載)。当Web Magazineではバックナンバー記事を掲載します。

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【73】極薄半導体チップ レーザー転写 高効率(2026年5月6日紙面掲載分)

量産化の障壁

人工知能(AI)の急速な社会への浸透に象徴されるように、デジタル社会は従来にも増して高度化の一途をたどっている。これに伴い、膨大なデータ処理を担う半導体には一段の高性能化と省電力化が求められているが、この要求に応える手段の一つとして重要性を増しているのが半導体チップの極薄化だ。

しかし、厚み20マイクロメートル(マイクロは100万分の1)以下のチップは極めて脆弱(ぜいじゃく)で、従来の搬送方式では破損や歩留まり低下が避けられず、量産化に向けた大きな障壁となってきた。「薄く壊れやすいチップを高精度かつ高速に実装する」、この難題の解決に向け、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」を通じ、東レエンジニアリングのレーザー転写技術開発を支援してきた。

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開発したレーザー転写技術の概要

精度・速さ両立

同社が開発するレーザー転写技術は、ドナー基板上の転写材料にレーザーを照射し、その反応・分解によってチップを瞬時に剥離・転写する技術だ。マイクロLEDの実装で培われた独自技術を基盤とし、多数のチップを高速に処理できる点が特徴である。一方、極薄チップを対象とした場合、剥離時の応力や姿勢変動など、わずかな乱れが破損に直結するため、高精度と高速性を両立することは容易でない。

そこで同社は、微小レーザーをチップ端部から順に走査する「スキャン方式」を採用し、スキャンパターンを工夫することで、低応力での剥離と剥離中の姿勢を安定させる手法を構築した。加えて、レーザー光学系の設計と転写材料を最適化することにより、光デバイス向けの重要部品であるインジウムリン(InP)や薄膜ニオブ酸リチウム(TFLN)など厚み1マイクロメートル以下の極めて薄い化合物チップでも、量産時に必要な精度を保ちながら、従来比10倍以上の効率で転写することに成功した。

実装に不可欠

この革新的な技術は、とりわけ光電融合技術やCPO(Co-Packaged Optics)の分野で真価を発揮するだろう。次世代の光集積回路では、シリコンの微細な光導波路上に数マイクロメートル厚の化合物チップを実装する異種材集積技術が求められる。極薄チップを高精度かつ高速に実装するこの技術は、こうした要件に高いレベルで応えるものと言える。

「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」では、先端半導体製造技術の開発として次世代の半導体産業に不可欠な幅広い事業を進めている。今回のレーザー転写技術もその重要な成果の一つであり、デジタル社会を支える実装基盤技術として広く適用が進むことが期待される。

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NEDO
半導体・情報インフラ部
ポスト5G室半導体チーム2 主査
東 嵩之(あずま たかゆき)

2011年大阪大学大学院修士課程修了。同年デンソーに入社し、車載向け回路設計および新規事業開発を経験。2024年からNEDOに出向し、「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/先端半導体製造技術の開発」における複数の事業を担当し、次世代半導体分野の開発支援に従事。

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