NEDOは2024年12月より、日刊工業新聞の科学技術・大学面において、「NEDO未来展望~イノベーションを社会へ~」と題し、NEDOが推進しているプロジェクト等について、その概要や特徴、目標、現時点での成果等をプロジェクト等の担当者が執筆・紹介しています(年末年始を除く毎週水曜日に掲載)。当Web Magazineではバックナンバー記事を掲載します。
【62】航空機のCFRP循環(2026年2月18日紙面掲載分)
退役が本格化
この20年で航空機の機体材料は大きく変わった。ボーイングの787型機やエアバスの350型機には主翼や胴体に炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が使われ、軽量化で燃費を下げる設計が主流となった。軽くなれば二酸化炭素(CO2)排出も削減する。そんな魅力的な機体にも終わりがある。ある予測では、今後20年以内に世界の航空機の4割超に当たる1万3000機以上の航空機が退役するとされている。複合材適用機の退役が本格化すれば、機体から生じるCFRP廃材も増える。退役機を乾燥地に並べ、解体の順番待ちをさせる保管拠点は「航空機の墓場」とも呼ばれる。このような状況では、脱炭素の物語は完結しない。そこでリサイクルが不可欠となる。
先導研究プログラム(「リサイクル炭素繊維の連続化技術および航空機適用技術の研究」)概略図
「始末をつける」
航空機に限らず利用が広がるCFRPだが、複合材は切断・解体が厄介で、炭素繊維を傷めず樹脂を外すのも難しい。結果としてリサイクルは進まず、多くは埋め立て処理される。「始末をつける」という表現があるが、単なる後始末ではなく、本来は「物事の最初から最後まで、責任を持つ」という意味合いを持つ。1回使ったら終わりにせず、終わりを次の始まりにつなげて新たな役目を与える―。「始末をつける」リサイクルの発想が必要ではないか。
高品質な再生
そこで新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、先導研究プログラム「リサイクル炭素繊維の連続化技術および航空機適用技術の研究」(2023~2025年度)で、「航空機に戻るリサイクル」の入り口を整えてきた。目標は短繊維化して別用途に回すのではなく、航空機品質に近い連続繊維を取り戻すことにある。具体的にはCFRP廃材を熱処理後、薄層にレイヤー分離し、レーザー局所加熱で樹脂残渣(ざんさ)を連続的に除去した上で一定長以上の炭素繊維を得る。既に、新品の炭素繊維と比べても遜色のない引張強度を有することを確認した。もっとも、社会実装できなければ循環は実現しない。
次回は、これらの成果を退役機由来の廃材から部品適用まで一連のプロセスでつなぐため、NEDOが2026年度から開始する新事業の設計思想を紹介する。NEDOは多様な企業からの出向者が集い、任期を終えれば知見を各社へ持ち帰る「人材の循環」で成り立つ。人材が巡って知見が広がるよう、素材も巡らせ、その価値を広げていきたい。
関連ページ
分野紹介:「航空・宇宙」分野
事業紹介:NEDO先導研究プログラム
産学連携ポータルサイト:NEDO connect(産学連携エントランス)
図の出典:NEDO先導研究プログラム 2025年度パンフレット(p61「リサイクル炭素繊維の連続化技術および航空機適用技術の研究」)
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航空・宇宙部
航空材料ユニット ユニット長
井上 能宏(いのうえ よしひろ)
京都大学大学院農学研究科卒(分子生物学)、2001年特許庁入庁。樹脂、繊維、合金、医薬品、化粧品、電池などの審査を主に担当。2024年7月から現職。航空材料(機体材料、エンジン材料)に関し、CFRPリサイクルに関するプロジェクトのほか、複合材料に関する各種プロジェクトに参画。