NEDOは2024年12月より、日刊工業新聞の科学技術・大学面において、「NEDO未来展望~イノベーションを社会へ~」と題し、NEDOが推進しているプロジェクト等について、その概要や特徴、目標、現時点での成果等をプロジェクト等の担当者が執筆・紹介しています(年末年始を除く毎週水曜日に掲載)。当Web Magazineではバックナンバー記事を掲載します。
【57】量子の力で計算領域開拓(2026年1月14日紙面掲載分)
ノイズ解消課題
長らく国際通信や第5世代通信(5G)を支える量子井戸構造(MQW)の半導体レーザーの開発など量子に携わってきた者として、量子の潜在力には大いに期待している。近年話題の量子コンピューターも、特定の問題において飛躍的な計算性能を発揮することが期待される。しかしながら、現時点ではノイズによる誤りを正しい値に戻す機能を備えておらず、社会実装に向け演算過程におけるノイズの影響解消が課題だ。この解決に向け、現在担当する新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)事業「計算可能領域の開拓のための量子・スーパーコンピューター(スパコン)連携プラットフォームの研究開発」では、スパコンと量子コンピューターを組み合わせたハイブリッドコンピューティングの開発を進めている。
生体分子系(レチナール)の反応解析の事例
「富岳」と連携
理化学研究所などが参画する同事業では、高速性を特徴とする超伝導型や高忠実性を特徴とするイオントラップ型の量子コンピューターをスパコン「富岳」と連携させる。この形でのハイブリッドコンピューティングとしては世界初の試みだ。「富岳」は大規模な古典計算や前処理を担い、量子コンピューターは最適化やシミュレーションなどの特定計算を担当することで両者の強みを生かし、これまでにない領域に計算を広げ、新たな答えをより正確に導くことを目指す。
活用事例を蓄積
このうち、超伝導型の量子コンピューターとスパコンのハイブリッドは、2025年6月に大規模な量子化学計算に成功した。電子相関の影響が強く現れるために典型的な難問題とされる鉄硫黄クラスターの電子状態解析において、量子コンピューターによる「試行的なサンプリング」を基に、スパコン側で電子配置の選別とエネルギー評価を行った結果、従来では手が届かなかった空間の探索に成功した。計算結果は既知の量子化学計算手法の結果と良好な一致を示しており、今後、製薬や新材料開発、さらに量子機械学習など複雑な最適化問題への応用が期待される。
イオントラップ型の量子コンピューターとスパコンのハイブリットも開発を進めており、近く成果が出る見通しである。今後、産業界の実ニーズに応じて計算を重ねるテストユーザープログラムや、より幅広いユーザーの掘り起こしを狙った懸賞金プログラムを進めることで、より多くのユースケースの蓄積を図っていきたい。
関連ページ
分野紹介:「量子」分野
/(g)計算可能領域拡大のための計算基盤技術開発/(g1) 量子・スパコンの統合利用技術の開発(スライド3)
トピックス:理研「富岳」- IBM Quantum System Two 連携稼働記念式典が開催されました(2025年7月7日掲載)
NEDO
AI・ロボット部
量子ユニット
計算基盤強化チーム 専門調査員
秋元 淳(あきもと じゅん)
1984年法政大工卒、同年富士通入社。光通信用化合物半導体事業に従事。米サンノゼ、伊ミラノなど駐在10余年を経て、2023年4月からNEDO事業「ポスト5G情報通信システムの開発」を担当、10月より「計算可能領域の開拓のための量子・スパコン連携プラットフォームの研究開発」のプロジェクトマネージャー。